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<p>岸田不況がやってくる 3つの爆弾は「値上げ」「住宅ローン」「年金」 | 週刊文春 電子版</p><p>岸田政権の対応のまずさがコロナ対策の混乱を招き、株式市場にも冷や水を浴びせた。だが、これは「岸田不況」の始まりに過ぎない。この先には、より深刻な“3つの爆弾”が待ち受けているのだ。 1つ目の“爆弾”は、生活必需品の「値上げ」だ。</p><p>コロナの波はいまだ収束が見通せず、「新しい資本主義」という曖昧模糊としたスローガンには、景気を刺激する好材料も見当たらない。今後、我々の生活はどうなるのか。多くの専門家に聞いて見えてきた、“3つの…</p><p>「政府の『新型コロナ対策分科会』は昨年11月16日以来、開かれていません。これは濃厚接触者の隔離期間など対策の中身や方向性について議論する場です。感染症の専門家からは、昨秋時点でブースター接種の前倒しが必要との声があがっていました。『コロナ対策分科会』が開かれていればもっと早期に対策を打てたはずです」(同前) 岸田政権の対応のまずさがコロナ対策の混乱を招き、株式市場にも冷や水を浴びせた。だが、これは「岸田不況」の始まりに過ぎない。この先には、より深刻な“3つの爆弾”が待ち受けているのだ。 1つ目の“爆弾”は、生活必需品の「値上げ」だ。 「昨年12月の米国の消費者物価指数は前年同月比7%増と39年半ぶりの高値を記録。さらに、原油先物価格が7年ぶりの高値となり、原材料の高騰などに伴う物価上昇が起こったのです」(経済部記者) 大王製紙は、ティッシュペーパーなどの家庭用紙製品について、3月下旬から15%以上値上げすることを発表。日清フーズはパスタやパスタソースを約3〜9%、冷凍食品を約4〜7%値上げすると発表している。長くデフレ下にあった日本にあって、2012年の安倍政権発足以降、政府と日本銀行は「2%の安定的な物価上昇」を目標に掲げてきたが、それを大きく超える値上げ幅だ。元内閣官房参与で経済学者の本田悦朗氏が指摘する。 「これまで日本が目指してきたのは、国内の需要が増えて自然にインフレ率が上がるデマンドプル型と呼ばれる物価上昇です。ところが、今回はコストプッシュ型と呼ばれる物価上昇で、エネルギー価格の高騰などの外的要因に伴う“悪い物価上昇”です」 第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏は「物価上昇の波はこれで終わりではない」と警鐘を鳴らす。 「原油先物価格の影響を受けた物価上昇にはタイムラグが生じます。電気やガス料金は3〜5カ月ほど経ってから上がりますし、食料品も夏以降、更なる値上がりは確実です」 なかでもリスクが高いのは、パンやパスタなどの穀物を原料とする食料品だ。 「大豆や小麦、トウモロコシなどの穀物市場は史上最高値圏で推移しています。農業のデジタル化などで供給量は増えているものの、中国や途上国の需要がそれを上回っている。日本ではメーカーよりも小売りの立場が強く、小売り側からの圧力によって原材料の高騰分が価格に十分に転嫁できず、目下の値上げでも、まだ損を被っている状態です。今後も原材料の高値が続けば夏から秋に再び値上げせざるをえない可能性が高い」(大手商社社員) 物価上昇と共に、高齢者の暮らしを直撃するのが“第2の爆弾”「年金額の減少」だ。経済ジャーナリストの荻原博子氏が語る。 「22年度から、公的年金の支給額は前年度比マイナス0.4%に減額されます。つまり、あらゆるモノの値段が上がっているにもかかわらず、年金額は減るという最悪の事態が起きるのです。減額は22年4月から適用されますが、年金は前月までの2カ月分が支払われるため、6月の支給分から反映されます」 厚生年金を受け取る夫婦2人のモデル世帯への支給額は月額21万9593円。前年度比で月額903円の減額となる。 「家計への負担はそれだけに留まりません。日銀が1月18日に発表した22年度の消費者物価指数の上昇率の見通しは前年度比1.1%です。総務省の家計調査報告を元にすれば、夫婦2人世帯の消費支出は月額で2468円増える計算になる。これに903円の“収入減”を合わせれば家計の負担増は月額約3400円。年額にすれば4万円を超えます」(同前) 生活が苦しくなるのは、現役世代も例外ではない。就任以来、賃上げの重要性を強調してきた岸田氏。そのための目玉政策として、昨年12月に閣議決定した税制改正大綱で企業に対する「賃上げ促進税制」の拡充を導入。13年から導入されてきた制度だが、その控除率を拡充した。しかし、荻原氏は、「これによって給与が上がることはない」と断言する。 「日本の企業の99%は中小企業ですが、その場合、全従業員の給与総額を前年度比2.5%以上上げるなどすれば法人税額が最大で40%控除される仕組みです。ただ、そもそも65%の企業は赤字で法人税を支払っていないため、制度の対象外。また、制度を利用するにしても、適用期間は現状、2年間のみ。給与は一度上げれば簡単に引き下げることはできませんから、その後は控除されないまま、高い賃金を払い続けなければなりません。つまり賃上げするインセンティブが働かない制度なのです」 生活必需品が値上がりする一方で、年金や給与は上がらない。さらに――。 1月26日、“第3の爆弾”を誘発する、米国の金融政策の大転換が行われた。アメリカの中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が利上げを表明したのだ。 パウエルFRB議長 「アメリカはこれまでゼロ金利政策を進めてきましたが、31年ぶりとなるインフレの抑制に向けて今年3月に政策金利を引き上げる方針を正式に示したのです。今後、日米の金利差が拡大すれば、円が売られ円安が進む。27日に日経平均株価が一時、900円超下落したのには、コロナ感染者増に加えて景気減速への警戒感もありました」(前出・経済部記者) 日本は2016年1月以来、マイナス金利政策を続けてきた。今後米国と歩調を合わせて利上げに踏み切れば“第3の爆弾”「住宅ローン金利の上昇」を招く。既に兆候は表れている。 「経済の具体的な戦略を」 「1月31日、米国の金利上昇を受け、長期金利の指標となる10年物国債の利回りが6年ぶりの高水準を記録。結果、3メガバンクはそろって2月適用分の固定型の住宅ローン金利を引き上げたのです」(同前) 金融ジャーナリストの浪川攻氏が指摘する。 「日銀は今年7月に審議委員の人事を控えています。任期満了の2人のうち、ひとりはリフレ派として知られる。水面下では、その後任に反リフレ派の人選が進められています。来年4月には黒田東彦総裁が任期満了を迎えますから、今後の利上げに向けた地ならしでしょう。同時に、今夏にかけて、マイナス金利の解消に向けた議論が進められていくと見られます」 黒田日銀総裁 「住宅投資は景気判断の指標に使われるなど、経済全体に与える影響が大きい。住宅ローン金利の上昇で買い控えが進めば、ポストコロナの日本経済を大きく冷え込ませることになる。既に変動型でローンを組んでいる人の家計も圧迫されます。かつてのサブプライム危機のような重大な事態に発展しかねません」(前出・経済部記者) 岸田氏は今国会でも繰り返し「新しい資本主義」を提唱しているが、前出の小林氏はこう語る。 「成長と分配の好循環を作るという岸田首相の考え方は基本的には正しいですが、即効性のない、いわば漢方薬的な政策です。加えていま必要なのは、第6波の感染拡大が収まった先に経済を立て直す具体的な戦略です。岸田首相にはトップリーダーとして明確なメッセージを出してほしい」 常に「様子見」と「検討」を繰り返すリアクション型の岸田首相。だが、今年から来年にかけてはコロナと経済の両面で後手に回ることは許されない難所が続く。 “3つの爆弾”を的確に処理し、「岸田不況」を回避できるのか。「新しい施策」が求められる。 ワクチン接種を視察する堀内大臣</p>