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ロシア軍が再びウクライナ侵攻の構えを見せる中、ここ数日どうすれば紛争の拡大を避けられるかに注目が集まっている。最近の(おそらく今後も)ウクライナにおけるサイバー攻撃の激化は、残念ながら最終的にこの衝突がデジタル領域に深刻な影響を与えることを示唆している。そして地上侵攻と異なり、デジタル紛争地域は米国まで拡大する可能性がある、と米国政府は警告した。長年にわたるロシアによるサイバー監視と「環境の準備」は、今後数週間数カ月のうちに、米国民間セクターに対する重大かつ破壊的ともいえる攻撃に発展するおそれがある。

このレベルの脆弱性を容認できないと感じるなら、それは正しい。しかし、どうしてこうなってしまったのか? また、大惨事を回避するために必要な行動は何なのか?まず、ウラジミール・プーチン大統領が、彼の長年にわたるロシアのビジョン達成のために、21世紀の技術的手法をどのように実験してきたかを理解することが重要だ。

サイバープロローグとしての過去

ロシアの動機は実に平凡だ。2005年4月、プーチン氏はソビエト連邦の崩壊を「世紀最大の地政学的大惨事」であり「ロシア国民にとって【略】紛れもない悲劇」であると評した。以来、この核となる信念が多くのロシアの行動の指針となった。残念なことに、現在。ヨーロッパでは戦場の太鼓が高らかに鳴り響き、プーチン氏はロシアの周辺地域を正式な支配下へと力で取り戻し、想定する西側の侵攻に対抗しようとしている。

ロシアがウクライナに対する攻撃を強め(ヨーロッパにおける存在感を高める)時期に今を選んだ理由はいくつも考えられるが、サイバーのような分野における能力の非対称性が、自分たちに有利な結果をもたらすさまざまな手段を彼らに与えることは間違いない。

ロシアの地政学的位置は、人口基盤の弱体化と悲惨な経済的状況と相まって、国際舞台で再び存在を示す方法を探そうとする彼らの統率力を後押しする。ロシアの指導者たちは、まともな方法で競争できないことを知っている。そのため、より容易な手段に目を向け、その結果、恐ろしく強力で効果的な非対称的ツールを手に入れた。彼らの誤情報作戦は、ここ米国で以前から存在していた社会的亀裂を大いに助長し、ロシアの通常の諜報活動への対応におけるこの国の政治分断を悪化させた。実際、ロシア政府は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとときとしてそれにともなう内乱に気をそらされている西側に、つけ入る機会を見出している可能性が高い。

しかしプーチン氏の長年にわたる非対称的手段の採用は、ロシアが何年にもわたりこの瞬間のために準備してきたことを意味している。こうした行動には馴染みがある。ソビエト時代の古い手段と道具は、21世紀のデジタル・ツールと脆弱性の操作によって新たな姿へと変わった。そして近年、この国はウクライナ、リビア、中央アフリカ共和国、シリア、その他の紛争地域を、自らの情報活動とサイバー機能破壊の実験台として利用している。

神経質になったロシア

今日ロシア当局は、さまざまな技術を駆使した「積極的対策」を施して、基本的民主主義機構を混乱させ、デマを流布し、非合法化しようとしている。ロシアがウクライナに送り込んでいる傭兵や秘密諜報員は、海外のハイブリッド戦場で技を磨き、否定可能な誘導工作と攻撃的サイバー活動を巧みにおりまぜた策略と物理的行動の組み合わせを用いている。

サイバースペースにおいて、ロシアは当時前例のなかった2007年のエストニアに対するサイバー攻撃や、その後のウクライナのライフラインや官庁、銀行、ジャーナリストらを標的とし、今も市場最も犠牲の大きいサーバー攻撃へと発展した、 NotPetya(ノットペトヤ)型サイバー攻撃を実行してきた。ロシアの諜報機関が米国の重要インフラストラクチャーシステムをハッキングした事例もこれまでに何度かあるが、これまでのところ重大な物理的あるい有害な影響や行動は見られていない(ウクライナやAndy Greenberg[アンディ・グリーンバーグ]氏の著書「Sandworm」に出てくるような事例とは異なる)。彼らは米国と同盟国の反応を試し、逃げ切れることを確認したのち、ウクライナをどうするかを議論するNATO諸国に対してさらに圧をかけている。

要するに、ロシアは偵察を終え、いざというとき米国などの国々に対して使いたくなるツール群を事前配備した可能性が高い。その日は近々やってくるかもしれない

ヨーロッパの戦争が米国ネットワークに命中するとき

ロシアがウクライナ侵攻を強めるにつれ、米国は「壊滅的」経済報復を行うと脅している。これは、ますます危険で暴力的になる解決方法に対する「escalatory ladder(エスカレーションラダー、国が敵国を抑制するために系統的に体制を強化する方法)」の一環だ。あまり口にされないことだが、ロシアのサイバー能力は、彼らなりの抑止政策の試みだとも言える。ロシアがここ数年行っているこうした予備的活動は、さまざまなサイバーエッグが孵化し、ここ米国で親鳥になることを可能にする。

米国政府は、ロシアが米国による厳格になりうる制裁措置に対抗して、この国の民間産業を攻撃する可能性があることを、明確かつ広く警告している。ロシア当事者のこの分野における巧妙さを踏まえると、そうした大胆な攻撃をすぐに実行する可能性は極めて低い。ときとしてずさんで不正確(NotPetyaのように)であるにせよ、彼らの能力をもってすれば、サプライチェーン攻撃やその他の間接的で追究困難な方法によってこの国の重要インフラストラクチャーや民間産業に介入することは十分考えられる。それまでの間にも、企業やサービス提供者は、深刻な被害やシステムダウンに直面する恐れがある。過去の事例は厄介な程度だったかもしれないが、プーチン氏と彼のとりまきが長年の計画を追求し続ければ、近いうちに経済にずっと大きな悪影響を及ぼす可能性がある。

ロシアが侵攻の強化を続けるのをやめ、出口を見つけて一連のシナリオが回避される、という希望も残っている。我々はどの事象も決して起きないことを望むべきだ。ただし、実際これは現時点ですでに期限を過ぎていることだが、産業界は自らを守るための適切な手順を踏み、今まさに起きるであろう攻撃に備える、多要素認証、ネットワークのセグメント化、バックアップの維持、危機対応計画、そして真に必要とする人々以外によるアクセスの拒否をさらに強化すべきだ。

編集部注:本稿の執筆者Philip Reiner(フィリップ・レイナー)氏は、技術者と国家安全保障立法者の橋渡しを担う国際的非営利団体、Institute for Security and Technology(IST)の共同ファウンダー。同氏は以前、国家安全保障会議でオバマ大統領政権に従事し、国防総省の政策担当国防次官室の文官を務めた。

画像クレジット:Mikhail Metzel / Getty Images

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(文:Philip Reiner、翻訳:Nob Takahashi / facebook