あまり遠出しなかったり、PHEVなどでEV走行だけで事が足りてしまった場合、ガソリンが消費されずタンク内に長い期間置いておかれることになる。
しかし、長期間使わないことで、ガソリンが生モノのように腐って、エンジンなどに悪影響を及ぼすことはないのか? そもそもガソリンが腐るのか? その消費期限は何カ月くらいなのか?
普段気にしていないが、実はクルマに深刻なダメージを与える可能性があるガソリンの鮮度問題について、今回は解説していきたい。
文/高根英幸
写真/ベストカーWeb編集部、TOYOTA、MITSUBISHI、PEUGEOT、VOLVO、AdobeStock(メイン画像=beeboys@AdobeStock)
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■長時間置いておくと腐る!? 知っておきたいガソリンという生モノの話
ガソリンの原料は石油、つまり太古のプランクトンなどが堆積して長い時間をかけて分解されることでできたものと言われている。そこから精製されたガソリンならば、古くなるとか腐るというのはイメージできない、なんて読者も居られるのではないだろうか。
しかし、ガソリンは石油から作られる燃料油の中でも揮発油と呼ばれる部類の気化しやすい燃料だ。それだけに放っておくと蒸発してしまうだけでなく、変質しやすい。また蒸発したあとの残留物はタール状になる。これは燃料系に溜まるとトラブルの原因になる。
それ以前にガソリンが変質してしまうと、燃えにくくなってエンジンは本来の性能を発揮できなくなってしまう。
そう、ガソリンは蒸発していくだけでなく、劣化していくのである。オートバイなどでタンク内のガソリンが劣化した状態のモノを体験したことがあるが、始動性が極端に悪化(つまり燃えにくくなっている)だけでなく、排気ガスが何とも言えない嫌な臭いに変わっていたと記憶している。
これをガソリンが腐る、と表現している訳だが、食品のように腐るという訳ではなく、あくまでも本来の製品とは異なるモノに変質してしまうことを腐る、と表現しているのだ。
と言っても、ガソリンタンクにたっぷりと入っている燃料であれば、半年くらいで変質してしまうようなことはほぼない。問題は、タンクから燃焼室に至るまでの燃料系に蓄えられているガソリンで、これは比較的短期間のうちに変質し始める。
気温や保管の環境などによっても変質しやすさは変わってくるので一概には言えないが、それでも2、3カ月でガソリンは変質し始める可能性が高い。
そのため、プラグインハイブリッドやレンジエクステンダーEVはエンジンが一定期間始動していない場合は、自動的にエンジンを始動させて、燃料系に残留しているガソリンを燃焼させるようになっている。
もちろんガソリンタンクに貯蔵されている燃料もゆっくりと劣化してしまうので、定期的に新しい燃料を補充して継ぎ足すことにより、品質を維持するようにするべきなのだ。プラグインハイブリッドの場合も2、3カ月に1度はタンク容量の半分くらいを給油したほうがいいだろう。
というのも実は、ガソリンは昔に比べて劣化しやすくなっている。平均気温が上昇して夏には猛暑となっているだけでなく、ガソリンに含まれるMTBEという添加剤が比較的劣化が早いようなのだ。
このMTBEはバイオエタノールを原料としたオクタン価向上剤で、現在は日本で販売されているすべてのガソリンに2%は添加されている。
鮮度が問題ないうちはMTBEはエンジンの性能を引き出すための添加剤として機能してくれるし、植物由来の燃料なので燃焼しても実質的にCO2を放出しないということから環境にも優しい。
欧米ではさらにバイオエタノールがたくさん入った燃料(最大85%!)が販売されていて(当然クルマの仕様も対応している)、純エンジン車であってもCO2の排出量を削減できるのだ。
ちなみにガソリンは揮発しやすい燃料のため、季節により若干成分を調整している。夏は揮発しにくいように冬は揮発しやすいようにと、元売り会社が調合して、より無駄が少なく安定した燃焼が行えるようになっているのだ。
■燃料だけでなく、エンジンのためにも定期的な運転を
定期的にエンジンを運転させることは、燃料系統のトラブルを予防するだけではない。エンジンは長い間運転させないと、内部の部品の表面からエンジンオイルの油膜がなくなってしまう。
そのため1カ月に1度はエンジンをかけるべきで、3カ月も放置していたら慴動面の油膜はほとんどなくなって、始動時はドライスタートと呼ばれる状態になってしまう。
完全に油膜がなくならなくても、油膜が通常より薄い状態では始動時に油膜切れを起こして摩耗することは避けられない。この時にシリンダーライナーやピストンリング、カムシャフトやギアから鉄粉が発生すると、それがエンジン内部を循環して更なる摩耗を誘発させる原因になるのだ。
したがってエンジンの摩耗を予防する、という意味では最低でも週に1度はエンジンを掛けて軽く負荷を掛けた状態で走行するべきなのである。単にオイルを循環させるだけではなく、一定の油温まで上昇させることでオイルシールやOリングなどのゴム類にも柔軟性を与えることができる。
クルマを走らせることなく止めっ放しにしていると、ダメージがおよぶのはエンジンだけではない。
タイヤのトレッド面にはフラットスポットと呼ばれる平らな面(丸いタイヤからすれば凹み)ができて、走行中に不快な振動の原因になる。走っているうちに解消される場合もあるが、元通りに戻らない場合もあるので注意したい。
さらにクルマを動かさないでおくと、タイヤはサイドウォールがヒビ割れてきたり、文字との境目(ゴムの厚さが変わる部分)が裂けてくることもあるほどだ。ドライブシャフトや足回りのブーツ類も走行して運動させないとゴムが硬化して破れやすくなってしまう。
電装系も使わなければ劣化が進む。バッテリーも自然放電により電圧が下がってしまうだけでなく、希硫酸が極板の鉛と結晶化してしまうサルフェーションが起こって、内部抵抗が増えてしまう。
スイッチ類の接点表面が酸化して接触不良を起こしてしまったり、リレーが正常に作動しなくなるなど不具合を起こす可能性が高まる。
さらにはMTであればクラッチやリアがドラムブレーキであればブレーキドラムとシューが張り付いてしまったりと、再び動かそうと思った時には、苦労する羽目に遭うことだってあるのだ。
クルマに限らず機械は、毎日動かしているほうが調子はいい。オイルや冷却水など液体のコンディションを保ちつつ、適度に運転させるのが機械としてよい状態を保つコツなのだ。
エンジン車であれば吸排気系や燃焼室のカーボンやデポジット(燃料の燃えカス)などの堆積を予防するためにも、月に1度は都市高速や郊外の道路を30分程度クルージングしてやったほうがいい。
そういった意味では、ある程度年式が進んだクルマは走行距離が少ないほどコンディションがいいとは限らない。中古車選びの時にも参考にしてほしい。
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