インドは、年度によって変動はあるものの、中大型の販売台数は日本の3倍~4倍といった規模の巨大トラック市場だ。
10年ほど前に訪れた際は、そのトラック事情に衝撃を受けた。
手づくりの木製キャブ、ヒンドゥー教などの神々に由来するという原色の派手なボディの装飾もさることながら、追い抜くときはホーンを鳴らし、パッシングをかますのがルールでありマナーであるという、日本人には信じられないようなカルチャーショック!
しかも、都市部でも信号がない道路には人があふれ、しかも野良牛に野良ヤギ、犬やニワトリ、猿まで道路にはみ出してくるのだ。
そんな道路を「われ先運転」「スピード命」「譲り合いなどクソ喰らえ!」とばかりにホーン連打で突っ走るのがインドのトラックの流儀なのである。
そんなハチャメチャな、よく言えばエネルギッシュな国がインドである。さぞやトラックも元気印に違いない。
トラックに詳しいフリーランスの緒方五郎氏にインドの主要メーカーのトラック事情をレポートしてもらった。
文/緒方五郎 写真/インドの各メーカー
*2020年9月発行トラックマガジン「フルロード」第38号より
■インドのトラック事情
インドも古くから自動車産業があり、多くが財閥など地場の大資本傘下である。
中大型トラックメーカーとしては、タタ、アショク・レイランド、アイシャー、マヒンドラがあり、外資系ではバーラト・トベンツ(ダイムラー)、合弁企業ではSMLいすゞ(中型以下のみ、旧スワラジマツダ)がある。
インドではGVW(車両総重量)16.2t以上が大型、GVW7.5~16.2tが中型、GVW7.5t未満が小型に分類される。
車格に対してエンジン排気量・出力が小さめないっぽう、排ガス規制は、10年からBS3(ユーロⅢ相当)が導入され、一部都市でBSⅢ(同Ⅳ相当)を導入。
17年から全土に「Ⅳ」が適用されたが、20年から「Ⅴ」をスキップしてBSⅥ(同Ⅵ相当)を施行するなど、急速に規制値を強化しており、日本や欧米のクリーンディーゼル技術の導入が相次いでいる。
最新モデルでは、コネクティビティの導入が始まっているが、安全装備はまだまだ未整備。キャブ設計も古いものが多い。
フロントパネルのみの裸シャシーから地場製作のキャブを架装する独特の文化もあり、仕様装備面では日米欧に比べると依然遠く(エアコンもない)、車両価格の低さが重視されている。
■商用車市場最大手のタタ(TATA)
タタ・モータースは、インドの三大財閥・タタグループ傘下の自動車メーカーで、中大型トラックは4~5割ものシェアを占めており、商用車市場では最大手である。
前身は、タタが1945年に設立した機関車製造会社・テルコで、54年にダイムラー・ベンツと業務提携し、3.5t積トラック・L3500の現地生産を開始した。
69年以降はメルセデスの小~大型車のライセンス生産へ移行し、2007年まで提携関係が続いた。
現行モデルの多くは、70~80年代のメルセデストラックのタタブランド車を改良し、BS Ⅵ規制適合エンジンを搭載したモデル(テレマティクスも導入されている)である。
いっぽう、2004年に韓国のトラックメーカー・大宇商用車(現・タタ大宇)を買収、タタ大宇で開発された大型トラック「プリマ」は、インド市場でもプレミアムトラックとして展開している。
14年には、次世代小中型トラック「ウルトラ」を発表、半世紀に及ぶメルセデス系プラットフォームを刷新することになりそうだ。
■こちらも財閥系のアショク・レイランド(ASHOK LEYLAND)
アショク・レイランドは、インド三大財閥のひとつ、ヒンドゥージャ・グループ傘下の商用車専業メーカーで、1948年設立のアショク・モータースを前身とする。
中大型トラック市場シェアは約3割で2位だ。50年に英のレイランド・モータースと提携し、中型トラック「コメット」の輸入・組立そして現地生産を開始、55年にレイランドが出資した。
80年にインド初の13t積車「タスカー」と3軸車「タウラス」を発売。87年にレイランド分の持ち株をヒンドゥージャの多国籍事業部門とイヴェコで共同購入し、同年発売の中型トラック「カーゴ」からイヴェコ技術が導入された。その前年の86年から日野のエンジン技術も導入している。
2006年にイヴェコ側持ち株を購入して完全子会社化、チェコの商用車メーカー・アヴィアを買収し、中型トラック「ボス」をラインナップに加えた。
17年にはBS Ⅵ適合エンジン技術の導入で、再び日野と提携している。
■三菱自動車も設立に一役買ったアイシャー(EISCHER)
アイシャー・モータースは、1982年、農業トラクター製造会社・アイシャー・グッドアースと三菱自工などの共同出資により設立された。
その背景には、自動車産業を近代化する国策があった。現在は中大型車でシェア約1割の3位である。86年に小型トラック・キャンターの現地生産を開始、94年に国産化を完了した。
三菱自工の技術支援は終了したが、アイシャー製キャンターは同国市場で大いに普及した。
08年に、ボルボグループと合弁会社VEコマーシャルビークルズ(VECV)を設立、トラック事業を移管するとともに、現地向けトラックの開発・生産とボルボ中型エンジンの生産拠点の任も担うことになった。
16年、中大型トラックがVECV開発の「プロ3000」「プロ6000」とUDクエスターの同型車「プロ8000」に一新された。
■バーラト・ベンツ(BAHRAT BENZ)
バーラト・ベンツは、2011年にダイムラートラック・アジア(DTA)のインド市場におけるブランドとして発足。そのトラック・バス製品は、チェンナイのダイムラー・インディア・コマーシャル・ビークルズ(DICV)で生産されている。
DICVも2009年の設立で、同国でもっとも新しいトラックメーカーだが、中大型トラック業界4位と推測される(販売台数を公表していないため正確には不明)。
12年に公開されたバーラト・ベンツ車は、その後も車型を追加していき、最新のBSⅥに適合する大型、HDT系はメルセデス・ベンツ、中型のMDT系は三菱ふそうの車両をベースにダイムラーの技術も融合したシャシー。
これらのクルマは、新興国向けに三菱ふそうブランドとしても輸出されている。
■紆余曲折の来歴マヒンドラ(MAHINDRA)
マヒンドラ・マヒンドラ(M&M)は、1945年設立の自動車メーカーだ。48年からジープを国産化していたが、89年に小型トラック「キャブスター」(H40アトラス)を生産・販売していたアルウィン日産の株式を取得、93年に吸収合併し、小型車市場で高シェアを有してきた。
2005年、米・ナビスターとの合弁会社マヒンドラ・ナビスター(MNAL)を設立、中大型トラック事業に新規参入する。
10年に新大型トラック「MN」を発表するが、12年末にナビスターが撤退を決定、M&Mのトラック・バス事業部門とした。
01年にキャブスターの改良モデル「ロードキング」を発売、16年にはMNの改良モデル「ブレイゾー」を投入し、18年末には初の中型トラック「フリオ」を発表する。
BS Ⅵ適合かつキャブデザインは16年に買収した伊・ピニンファリーナによる。19年には、BS Ⅵ適合モデルの「ブレイゾーX」、ロードキング改め「ジャヨー」が発表された。
中大型クラスが手薄だったことから5位のポジションだが、今後の動向が注目される。
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