クルマを購入するにあたって絶対に必要なものの一つに保険がある。義務化されている自賠責保険と、事故の際に必要な賠償金などの費用をカバーするための任意保険だ。
任意保険の中に、自分のクルマの修理にかかわる「車両保険」がある。この保険金額は、「型式別料率クラス」によって決まるのだが、以前はスポーツカーや高級車が高いという傾向があった。
しかし近年は意外なクルマの車両保険料が高くなっているという。その理由とはなんなのだろうか?
文/小林敦志、写真/TOYOTA、AdobeStock(tatsushi@AdobeStock)
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■自動車保険の今
マイカーを維持していく経費のなかでウエイトの大きいものに、自動車保険(任意保険)がある。日本では“強制保険”などとも呼ばれる自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)もあるが、こちらは加入が義務付けられている。
しかし、自賠責保険の対象は対人事故のみとなっており、そのほかの物損に対する補償などをフォローする意味で任意保険が存在しており、その加入率は損害保険料率算出機構の統計によると、2020年対人賠償保険が75%、以下対物賠償保険75.1%、搭乗者傷害保険25.8%、車両保険45.7%、人身傷害保険70.2%となっている。
ただし、これはあくまで全国平均の数字でしかも任意保険に限った話(自動車共済は入っていない)だ。2019年統計となるが、自動車共済も含めると、実質的な任意保険加入率は約88%となっており、任意保険に加入している車両がほとんどともいえる。
だが、それでも自賠責保険のみ(自賠責保険すら失効した状態で運転しているケースもある)で日々クルマを運転しているドライバーも10数%になるので、そのような“未加入車両”との事故でのリスク回避や、加害者的立場となった場合の相手方への十分な補償をするためにも、任意保険や自動車共済の存在は大きい。
任意保険に限ってみれば、従来からの“店舗型”と、ネット活用をメインとした“ダイレクト保険型”というものが存在する。
店舗を持つ損害保険会社の任意保険に対し、ダイレクト型任意保険の保険料はテレビコマーシャルなどでもおなじみだが、格段に安いものとなっている。店舗を構えないなど徹底したコスト削減により魅力的な保険料を実現しているのだが、事情通は別の見方をする。
「保険料だけを見れば店舗型は圧倒的に不利に見えますが、実際の契約数で比較すると店舗型が圧倒的に多いです。“職域加入”といって勤務先を通して加入すると保険料が割引されたり、新車ディーラーや中古車販売店、街なかのモータースが代理店になっていたりもして、店舗型ならではの“人海戦術”も功を奏しているようです。
■店舗型とネット型の特徴
しかし保険契約者の傾向をみると、店舗型では積極的というか、例えば飛び石でフロントガラスにヒビが入ったから交換するとか、単独事故で破損したからなど、積極的に保険を活用したいという人が多く見受けられます。そのため保険料が高くても店舗型で“相手が見える”ので加入しているケースが多いようです。
一方でダイレクト保険では、あくまで“ダメージの重大な事故を起こしてしまった時に備えるため”に任意保険に加入するといった考えの人が多いようです。そのためダイレクト保険では実際の保険利用率が少ないことも魅力的な保険料を実現しているとも聞いております」と話す。
また近年の任意保険は“リスク細分型”を求め続けた結果、もはや保険加入者、つまりドライバーレベルではその契約内容の全貌を理解するのが困難になっているのが実状。
実際任意保険の取り扱い資格を持ち、日々保険契約業務を行っている新車販売セールスマンでも、「お客様には申し訳ありませんが、実際に保険契約者様が事故を起こされないと、どのような補償が可能なのかは、細部まではっきりわかりません」という話も聞く。
そのため、顔なじみの新車ディーラーのセールスマンに“丸投げ”しているケースも多い。
またダイレクト保険はネットから契約者自身が申し込むことになる。
ただ、詳細な約款などを確認しないまま契約してしまい、実際に保険金請求を行ったところ、契約ではフォローされていないとして支払われなかったケースもあるとのこと。完全自己責任で加入するのだから、手続きの際には面倒くさがらずに詳細な部分まで目を通して加入してもらいたい。
ドライバーの高齢化、そして若年層の“クルマ離れ”もあり、損害保険会社も任意保険契約の囲い込みに日々努力している。任意保険は1年ごとの契約更新が原則であるが、最近は2年や3年といった長期契約による契約者の“囲い込み”を行うようになってきている。
長期契約のメリットとしては、契約期間中に事故を起こして保険を使ったとしても、3年の長期契約ならば3年間は保険料がアップすることはない(ただし契約更新時には保険料アップとなる)。また、毎年契約更新をする手間を省くことができるというメリットもある。
いまどき任意保険の新規契約などは、なかなか期待できない。そのなかで、既存の契約数を維持しようとするのだが、ダイレクト型保険へ流出してしまうケースも目立っており、店舗型任意保険において長期契約というものが登場してきたとも聞いたことがある。
事故を起こしてしまった時のリスクヘッジとともに、相手がいれば相手への十分な補償のためにも任意保険加入は半ば“ドライバーの義務”ともいわれているが、その保険料の高さが若者のクルマ離れを助長しているともいわれている。
初めてマイカーを持つことの多い若年層が新規加入する際の保険料はかなり高い。ことの真偽はともかくとして、ドライバーの高齢化により、保険の割引等級がマックスレベルにきている契約者が多く、若者が圧倒的に多い新規契約者の保険料にその分の負担が上乗せされているとイメージする人も多い。
しかも、最近では割引率の高い契約者である高齢者の事故が多く、さらにそのイメージが増長傾向にあるとの話も聞く。
かつて、まだまだ任意保険の新規契約も多かったバブル経済期には、“若者は事故をよく起こすから保険料が高い”との見方が多く、確かに若者が好んで乗る2ドアスポーツクーペなどの保険料が高いのは有名な話であった。
■最近の新車販売現場でみられる保険料の傾向
しかし、最近では新車販売現場で聞くと、「年配のドライバーがよく乗っている、おとなしいクルマの方が保険料が高いこともある」という話を聞いたことがある。
試しに、テレビニュースで報道されていた高齢ドライバーが暴走事故を起こしたとされる某車の保険料算定基準となる保険料率クラスを見ると、確かに高めとなっていた。
しかも2ドアスポーツクーペのほうが料率クラスは低かったのである。もちろん、このような傾向は高齢ドライバーが多いだけではない。どうしても事故が多くなるレンタカーなどのフリートユースや社用車ニーズの多いクルマは料率クラスが高めとなっているようである。
ある新車販売セールスマンは、「コテコテのエアロ系ミニバンやクーペというと、事故が多いと思いがちですが、実はそもそもユーザー年齢をみると若者は少なく、若いころクルマ好きだった方や、コレクターアイテムとして楽しむお客様が多いので、大切にお乗りになるので事故は目立って多くはありません」とのこと。
それでは高齢者の事故はそんなに目立っているのかというと、損害保険料率算出機構の資料によると、年齢別でみると高齢ドライバーの事故が目立って多いというわけではないとのこと。ただ、しばしばテレビニュースで取り上げられるような重大事故の発生は多くなっているとのことである。
最近というわけではないが、新車購入時に車両保険の加入を熱心に勧められるようになって久しい。筆者も気候変動が目立ってきて、夏に“ひょう”がよく降るようになってきたタイミングで新車を購入する際に車両保険への加入を勧められて加入してから久しい。
車両保険は近年多くなっている、水害による車両水没や台風被害(飛んできたものでの車両損害)、落雷、竜巻、雪害被害などで使うことができる。ただし地震や噴火の被害では使えない。気候変動による自然災害から愛車を見守る意味で車両保険加入は有効手段といえるだろう。
さらに、近年ではクラッシャブルボディ設計により、コンパクトカーあたりでは全損事故扱いになりやすいので、その意味でも車両保険への加入が勧められるとのこと。また、残価設定ローンを活用して新車を購入する際も車両保険への加入が勧められる。
「そもそも、支払最終回に3年や5年後の残価相当額を据え置くので、残債が多く残りやすいなか、支払い開始直後に車両保険に加入していない状態で全損事故を起こすと目もあてられなくなります。多額の残債を残したまま、ファイナンス会社の判断次第でとなりますが、車両自体の処分ができても支払いを続けなければなりません。
つまり、自宅にナンバープレートを飾ったまま(抹消ができない)ローンを支払続けることになります。車両保険に入っていれば、ローンの完済ができ抹消手続きも完了し、再び出費とはなりますが新車に乗り換えることもできます」とは事情通。
車両保険に“車両新価特約”というものが設けられている。これは、特約で設定した協定新価保険金額の50%以上の修理費のかかる損害を受けた場合、新車価格に相当する保険金額が支払われるもの。
この特約がないころに、新車セールスマンは自分のお客で多額の修理費がかかる甚大なダメージを受けた場合、保険会社になんとか全損扱いにできないかと交渉することもあったと聞く。お客の負担軽減もあるが、新たな新車受注へつながるという意味もあったようだ。
車両新価特約は、もちろん契約者メリットという部分が大きいのだが、新車販売を刺激するという意味合いでも存在感を持つだろう。
任意保険は相手方への十分な補償をするためという意味で存在は大きいのだが、近年では自分の愛車にかかるコストやリスクをいかに分散させるかという意味でもその存在が大きくなっているように見える。
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