日本最高峰のフォーミュラレース、全日本スーパーフォーミュラ選手権の2022年シーズンが、いよいよ富士スピードウェイでの第1・2戦で幕を開ける。今季はさまざまな面で“変化の年”となりそうな同シリーズだが、その象徴とも言える『1ウイーク2レース制』のフォーマットが、いきなり開幕ラウンドから採用されることになる。
ここでは2022年のスーパーフォーミュラ選手権の概要や昨年からの変更点、エントリーリストやシーズン展望などをお届けする。
■2レース制含む全10戦。全戦でポイントが有効に
シリーズは昨年、『SUPER FORMULA NEXT 50(スーパーフォーミュラ・ネクスト・ゴー)』というテーマを掲げ、「50年後もモータースポーツ業界がサステナブルである」ことを目指したさまざまな施策を打ち出していくとし、2022年を“実験の年”と位置づけている。
これに応じた実際のレースイベントにおける大きな変化としては、全7大会中3大会で1ウイーク2レース制を実施することが挙げられる。これにより、シーズンは全10戦(レース)で争われることになった。
■2022年全日本スーパーフォーミュラ選手権 スケジュール
Round | Date | Circuit | Distance | Start Time |
---|---|---|---|---|
1 | 4月9日(土) | 富士スピードウェイ | 187.083km | 14:30 |
2 | 4月10日(日) | 富士スピードウェイ | 187.083km | 14:30 |
3 | 4月23日(土)〜24日(日) | 鈴鹿サーキット(2&4) | 180.017km | 14:30 |
4 | 5月21日(土)〜22日(日) | オートポリス(2&4) | 196.308km | 14:30 |
5 | 6月18日(土)〜19日(日) | スポーツランドSUGO | 190.058km | 14:30 |
6 | 7月16日(土)〜17日(日) | 富士スピードウェイ | 187.083km | 14:30 |
7 | 8月20日(土) | モビリティリゾートもてぎ | 177.637km | 14:30 |
8 | 8月21日(日) | モビリティリゾートもてぎ | 177.637km | 14:30 |
9 | 10月29日(土) | 鈴鹿サーキット | 180.017km | 14:30 |
10 | 10月30日(日) | 鈴鹿サーキット | 180.017km | 14:30 |
昨年まで2レース制の際はそれぞれのレースで通常の半分のポイントが与えられていたが、2022年はそれぞれのレースで通常と同じポイントが付与される。また、有効ポイント制が廃止され、全10戦すべてのポイント合計で選手権が決するシンプルな形となった。
各レースにおける点数配分は、予選が首位から順に3-2-1ポイント、決勝では1位から順に20-15-11-8-6-5-4-3-2-1ポイントと、従来と変わらない。
昨年までQ1〜Q3までの3セッション制を採っていた予選フォーマットは、今季はQ1、Q2の2セッション制へと改められた。
1レース制の週末はこれまでどおり90分のフリープラクティス1と予選を土曜日に行い、日曜は30分間のフリープラクティス2、決勝を行うフォーマットとなる。
2レース制の週末は金曜日に90分間の専有走行を行い、土曜・日曜は午前中に予選、午後に決勝という流れが両日繰り返される。決勝スタート時刻は全イベント14時30分で固定された。
なお、決勝はいずれのフォーマットの場合でも給油禁止、そしてタイヤ交換義務ありというルールで行われる。
ハード面では、引き続きダラーラSF19シャシーを継続使用するが、昨年は年間1基だったエンジン使用基数が、今季は2基へと改められている。また、後述するとおりヨコハマが供給するワンメイクタイヤの仕様が変更された。なお、燃料流量リストリクターを使用したオーバーテイクシステムは、2021年同様、トータル100秒間をドライバーが任意のタイミングで使用できる。
これらフォーマットやルールの変更点をまとめると、次のようになる。
■スーパーフォーミュラ 2022/2021シーズン比較
項目 | 2022 | 2021 |
---|---|---|
レース数 | 10 | 7 |
予選フォーマット | Q1/Q2 | Q1/Q2/Q3 |
2レース開催時のポイント | フルポイント | ハーフポイント |
有効ポイントレース数 | 全戦 | 5戦 |
使用可能エンジン基数 | 2 | 1 |
また、車両の主要諸元は以下のとおりだ。
■SF19主要諸元
シャシー | |
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製作 | ダラーラ・オートモービル(イタリア) |
全長 | 5,233mm |
ホイールベース | 3,115mm |
全幅 | 1,910mm |
全高 | 960mm |
最低重量 | 670kg(ドライバー搭乗時) |
ギアボックス | リカルド 前進6速、パドルシステム |
ブレーキ | ブレンボ キャリパー、ブレンボ カーボン製ディスク |
ステアリングシステム | KYB 電動パワーステアリングシステム |
フロントサスペンション形式 | プッシュロッド、トーションバースプリング |
リアサスペンション形式 | プッシュロッド |
安全基準 | FIA 2016/17 F1規定に基づく |
タイヤ | 横浜ゴム株式会社 F:270/620 R13 R:360/620 R13 |
エンジン | |
---|---|
メーカー/製造元/型式 | 本田技研工業/M-TEC製/HR-417E トヨタ自動車/TRD製/TRD 01F |
排気量 | 2,000cc |
仕様 | 直列4気筒、ダイレクトインジェクション |
過給器 | ターボチャージャー(ギャレット製) |
最低重量 | 85kg |
制限 | 405kw(550ps)以上 |
出力規制 | 燃料リストリクターによる燃料流量制限 |
■注目のルーキーと移籍組
2022年のスーパーフォーミュラには、12チームから21人のドライバーがエントリーしている。
新たに加わるチーム/ドライバーを整理すると、まず昨年までTEAM MUGENとタッグを組んでいたTEAM GOHが独立したチームとなり、ルーキードライバー2名のフレッシュな顔ぶれで参戦する。
ドライバーは2021年のスーパーフォーミュラ・ライツでランキング3位と4位に入ったふたりで、レッドブルカラーとなる53号車は佐藤蓮が、そして55号車では三宅淳詞がステアリングを握る。
昨年代役としてデビューし、初優勝も飾ったジュリアーノ・アレジ(Kuo VANTELIN TEAM TOM’S)は、今季フル参戦初年度を迎える。スーパーGTでもGT500へのステップアップが決まっており、両トップカテゴリーでどんな走りを見せてくれるか、注目が集まる。
同じくコロナ禍における代役参戦経験を持つ笹原右京は、昨年チャンピオン野尻智紀のチームメイトとしてTEAM MUGENからフル参戦を果たす。速さに定評のある笹原だけに、野尻との2台体制となるTEAM MUGENは他陣営にとって手強い存在となりそうだ。
チーム移籍という面では、昨年初優勝を含む2勝を挙げランキング2位となった福住仁嶺が、ThreeBond Drago CORSEから参戦することに。「まずはチーム初勝利を」と新たな環境に飛び込んだ福住がどれほどのパフォーマンスを見せられるのか、注目だ。
また、昨年福住が参戦していたDOCOMO TEAM DANDELION RACINGには、昨年Red Bull MUGEN Team Gohで初優勝を遂げた大津弘樹が移籍加入している。
なお、現在のところコロナ禍の入国規制も昨年までに比べて緩和されており、これが続けばWEC世界耐久選手権にも参戦する小林可夢偉(KCMG)、平川亮(carenex TEAM IMPUL)は、ともにフル参戦が叶いそうな状況だ。実際、WEC開幕戦の4日後に行われた富士公式合同テストにも、ふたりは参加することができている。
■2022全日本スーパーフォーミュラ選手権 エントリーリスト
No. | Driver | Team | Engine |
---|---|---|---|
1 | 野尻智紀 | TEAM MUGEN | HONDA/M-TEC HR-417E |
15 | 笹原右京 | TEAM MUGEN | HONDA/M-TEC HR-417E |
3 | 山下健太 | KONDO RACING | TOYOTA/TRD 01F |
4 | S.フェネストラズ | KONDO RACING | TOYOTA/TRD 01F |
5 | 牧野任祐 | DOCOMO TEAM DANDELION RACING | HONDA/M-TEC HR-417E |
6 | 大津弘樹 | DOCOMO TEAM DANDELION RACING | HONDA/M-TEC HR-417E |
7 | 小林可夢偉 | KCMG | TOYOTA/TRD 01F |
18 | 国本雄資 | KCMG | TOYOTA/TRD 01F |
12 | 福住仁嶺 | ThreeBond Drago CORSE | HONDA/M-TEC HR-417E |
14 | 大嶋和也 | docomo business ROOKIE | TOYOTA/TRD 01F |
19 | 関口雄飛 | carenex TEAM IMPUL | TOYOTA/TRD 01F |
20 | 平川亮 | carenex TEAM IMPUL | TOYOTA/TRD 01F |
36 | G.アレジ | Kuo VANTELIN TEAM TOM’S | TOYOTA/TRD 01F |
37 | 宮田莉朋 | Kuo VANTELIN TEAM TOM’S | TOYOTA/TRD 01F |
38 | 坪井翔 | P.MU/CERUMO・INGING | TOYOTA/TRD 01F |
39 | 阪口晴南 | P.MU/CERUMO・INGING | TOYOTA/TRD 01F |
50 | 松下信治 | B-Max Racing Team | HONDA/M-TEC HR-417E |
53 | 佐藤蓮 | TEAM GOH | HONDA/M-TEC HR-417E |
55 | 三宅淳詞 | TEAM GOH | HONDA/M-TEC HR-417E |
64 | 山本尚貴 | TCS NAKAJIMA RACING | HONDA/M-TEC HR-417E |
65 | 大湯都史樹 | TCS NAKAJIMA RACING | HONDA/M-TEC HR-417E |
■復調組とニューフェイスが、上位争いに加わるか
開幕前に鈴鹿、富士と2回行われたテストでは、昨年の勢力図から変化の兆しが見受けられた。そしてさまざまな要因が相まって、今季はより多くのドライバーが上位を争うものと予想される。
3月の上旬の鈴鹿公式合同テストで光ったのが、山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)、坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)、山下健太(KONDO RACING)ら、昨年不調にあえいでいたドライバーたちの上位進出だ。
2020年に3度目のタイトルを獲得した山本は「このシーズンオフにもう一度クルマを見直してもらって走り出したら、かなり上手く走れるようになった」と話しており、昨年の大不振から脱却の兆しを見せている。
坪井もまた「チーム体制やレース・テストの組み立てをもう一度見つめ直し、イチからやるつもりで」オフの間に準備を進め、「昨年とは少し違ったセルモ・インギングを作り上げられたという手応えを感じている」と、視界良好な様子。
3月下旬の富士公式合同テストでは、総合トップタイムをサッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)が奪い、山下と並んでKONDOの好調ぶりをアピール。昨年はコロナ禍の入国規制により2戦しか出場することができなかったフェネストラズだが、オフの間にチーム全体としても大きな向上を果たしてきたようで、昨年のもどかしさを晴らすべく、モチベーションは極めて高い。
テストのタイムを見る限りKuo VANTELIN TEAM TOM’S勢も復調の兆しを見せており、鈴鹿テストの最終セッションでトップタイムを奪った宮田莉朋は「鈴鹿も富士もわりと上位にいることができたので、あとは開幕戦に向けてアジャストしていきたい」と語っている。
また、富士テスト2日目午前のセッションでは関口雄飛(carenex TEAM IMPUL)とまったくの同タイムとなるセッションベストをルーキーの佐藤がマークするなど、新勢力の台頭にも期待がかかる。
とくにTEAM GOHは、元ホンダF1マネージングディレクターの山本雅史氏が監督を務めるほか、岡田秀樹氏と伊沢拓也がアドバイザーを務めるなど、充実の体制でルーキーふたりをサポートしており、テストでのタイムでもトップチームにさっそく肩を並べていることから、『台風の目』となることも期待される。
一方、これら新興勢力&復調組を迎え撃つ側も、オフの間にそれぞれの課題に向き合い、開幕を迎えようとしている。
昨年タイトルを獲得した野尻には“王者の貫禄”も感じられる。開幕前最後のテスト機会となる富士でもタイムを追わず、課題解決に集中。最終セッションはニュータイヤを使わずに5番手と悪くないタイムを残し、「ここからどれくらい高いパフォーマンスを出せるのかという部分では、(開幕戦が)楽しみで仕方ない」と言い切っている。
このほか、昨年ランキング上位に食い込んだ関口や平川、大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)らもそれぞれに課題を抱えながら上位に顔を覗かせる場面はあり、引き続きタイトル戦線の主役となることが期待される。
開幕前のテストはいずれも寒いコンディションの中での走行となり、全体のタイム差もわずかであることから、レース本番ではさらに異なる勢力図が描かれる可能性もある。レース数も増えるなか、復調組や新勢力の台頭も相まって、今季は多くのドライバーが上位争いを展開、タイトル戦線は“役者ぞろいの混戦模様”となりそうな予感が漂っている。
■変更されたリヤタイヤと2レース制の影響は?
また、今季はヨコハマの供給するタイヤにも変更が加えられ、リヤタイヤの構造(形状)変更が行われた。耐久性の向上を目的とし、ショルダー部分がより丸みを帯びた形状のものが採用されている。
ヨコハマは「タイヤの特性を変えようという意図はまったくない」としており、変更の影響を感じていないドライバーも多いようだが、一方では影響を体感しているドライバーもいる。
そのなかには低速コーナーでのトラクションの掛かりづらさなどを指摘する声もあり、これによりタイヤがスライドすることで、主に暑い時期のロングランにおけるリヤのデグラデーションを懸念するドライバーやエンジニアもいる。いち早くこのタイヤを理解し、セットアップを合わせ込むことも、勝利へのカギとなるかもしれない。
1ウイーク2レース制については、どのドライバーも関係者も「調子が良ければ大量得点を狙えるが、走り出しが悪いと厳しくなる」と異口同音に語る。また、開幕前の富士でのテストは初日午前がウエット、さらに午後は降雪により中止と、ドライで走り込めた時間は少ない。
これらのことから、いきなり2レース制が採用される開幕ラウンド富士の週末は、第1戦予選前唯一の走行機会となる金曜日の専有走行から、各陣営の緊張感は極めて高くなりそうで、目が離せない。
また、2レース制は開幕のほか、シーズン中盤のモビリティリゾートもてぎ、そして最終ラウンドの鈴鹿サーキットで予定されており、いずれもタイトル争いに向けて非常に重要なイベントとなりそうだ。
■新たな情報発信や、未来に向けた車両開発も実施へ
冒頭で触れた『スーパーフォーミュラ・ネクスト・ゴー』の取り組みの一環として、今年は新デジタルプラットフォーム『SFgo』が立ち上げられるほか、公式YouTubeチャンネルの強化が図られる。ファンとしては、これらの取り組みよってスーパーフォーミュラの魅力がどのように提供されるのかも、気にかかるところだろう。
また、もうひとつ未来に向けた大きな動きとしては、「ドライバーズファーストとカーボンニュートラルの実現を目指すクルマづくりの挑戦」を掲げ、2022年シーズンを通じて次世代のフォーミュラカーの開発が行われることになった。
具体的には各レースイベントの前後に、2台のテストカーでの開発テストを実施。ここでは『カーボンニュートラル実現に向けた素材・タイヤ・燃料の実験』が行われるほか、『ドライバーの力が最大限引き出せるエアロダイナミクスの改善』や『エンターテインメントの魅力向上につながる車両開発』をしていくという。
この2台のテストドライバーは、石浦宏明と塚越広大が務めることが発表されている。
2022年のシリーズ展開はもちろんのこと、2023年以降に向けたこれらの取り組みにも、注目が集まる一年となりそうだ。