2021年2月、ジャガーランドローバーが2025年にジャガーブランド車を完全バッテリーEV化することを表明。あと3年ほどでエンジン搭載車は廃止になる見通しだ。
そのため、現行ラインナップが最後になるジャガーのエンジン車。英国の名門としての伝統を受け継ぐ内燃機関搭載ジャガーの歴史的モデルにも触れながら、現行モデルの魅力を紹介していこう。
※本稿は2021年12月のものです
文/石川真禧照、写真/Jaguar ほか
初出:『ベストカー』2022年1月10日号
■英国の名門ジャガー、その魅力は何か?
英国のジャガーは1935年に誕生した。当時発売していたSSジャガー2 1/2やSS90、SS100が大人気スポーツカーとして売れた。その理由は美しいデザイン、高性能、低価格だった。低価格の理由は量産化。当時、ベントレーの4分の1の価格で、同性能かつ美しいジャガーが買えたのだ。
この流れは1960年代のEタイプまで続いた。1961年に登場したEタイプは最高速240km/hの美しい2人乗りスポーツカーだったが、英国での価格は226万円。これは同じ性能のメルセデス300SLやフェラーリの半額だった。
スポーツカーメーカーとしての実績もハンパじゃなかった。1950年代からモータースポーツの世界に参入。1950年代にはル・マン24時間レース3連覇を含み、これまで通算7勝。ツーリングカーレース、フォーミュラ1などにも参戦し、優秀な成績を収めている。最近もフォーミュラEにワークスチームで参戦している。
こうしたレースのノウハウからスーパーカーも手がけた。1999年の東京モーターショーで公開した「XJ220」は最高速220マイル(354km/h)を目標にして開発され、29万ポンド(約7400万円)で販売された。わずか281台が生産された希少車だ。
一方、英国伝統の高級車としてもジャガーの名声は高い。英国王室御用達の証し(エムブレム)を与えられている。「XJ-S」は英国紳士、淑女のためのスポーツモデルとして1975年に登場、1996年まで手を加えながら生産された。常に美しいスポーツカーを送り出し続けている。
■エンジンが魅力だったジャガーといえば?
ジャガーのエンジンで有名なのは1960年代にEタイプなどに積まれた直6の3.8Lがある。これよりわずかに遅く登場したのがV12の5.3Lエンジン。ジャガーの12気筒は1998年まで搭載されている。
V12が消滅したあとのパワフルユニットはV8エンジン+スーパーチャージャーだ。近年、ジャガーはターボよりスーパーチャージャーを多く用いている。その最高峰がSVO(スペシャルビークルオペレーションズ)が開発したエンジン。FペイスSVRなど、このエンジンを搭載したジャガーが最も迫力がある。
■現行ジャガー5モデルの魅力は?
■Fタイプ:ジャガースポーツらしいクーペ&コンバーチブル
●価格:935万〜1734万円
伝説の名スポーツカー、Eタイプの血筋をひくピュアスポーツカー。2013年にデビューし、2020年にヘッドライト形状やテールランプ形状などの外観の変更と、室内では12.3インチの液晶ディスプレイを装備するビッグマイナーチェンジを受けた。サスペンションなどの基本的なメカニズムは変わっていない。
バランスのとれた美しいボディはジャガーの伝統。そのボディはオールアルミ。リアゲート付き2ドアクーペとキャンバストップのルーフを持つコンバーチブルが選べる。
パワーユニットはV6、3LとV8、5Lのガソリン+スーパーチャージャーでスタートした。V8は575ps/71.4kgm+4WDのハイパフォーマンスモデル。走りは強烈な加速とコーナリングが印象的だ。
2017年には直4、2Lターボ+FRのモデルが加わった。このモデルはフロント荷重が軽く、コーナリングのキビキビ感がライトウェイトスポーツカー的で楽しめるスポーツカーだ。
■XF:XJなき今、最上級のサルーン&ワゴン
●価格:677万〜858万円
初代は2009年にデビューしたダイナミックラグジュアリー4ドアサルーン。軽量モノコックボディは全体の75%がアルミニウムを使用している。スタイリングもリアウィンドウの傾斜を強くし、クーペ的なフォルムをつくり出した。
パワーユニットも初代はV8、4.2〜5Lのスーパーチャージャーエンジンを搭載したFR車を設定するなど、アッパーミドルのスポーツセダンとして存在感を示した。
2012年にはルーフを後ろまで伸ばしたステーションワゴン「スポーツブレーク」を発表。これは英国紳士が趣味の狩猟に行く時のためのクルマ。ジャガーの英国車としての地位を示している。
現行モデルは2015年にフルチェンジしたモデル。デビューから7年目を迎えて、パワーユニット、グレードともに整理されている。2022年モデルは2Lガソリン(300ps・250psの2種)/ディーゼルのターボがメインになった。
■XE:Dセグメントのスポーツサルーン
●価格:569万〜742万円
日本では2015年から販売されているミドルサイズセダン。ジャガーが生産するセダンのなかではもっともコンパクトサイズ。ボディは4ドアセダンだけだが、モノコック構造でアルミを75%使用したことで、軽量でねじれ剛性と安全性の高いセダンに仕上がっている。
サスはフロントにダブルウィッシュボーン、後ろにインテグラルリンク式を採用して縦/横方向ともにしっかりした剛性を実現している。
パワーユニットは最強のV6、3Lスーパーチャージャーが2022年モデルでは消滅したのが残念。強烈なコーナリングパワーが味わえた。2022年モデルは全グレード2Lガソリン/ディーゼルだが、バランスのとれたスポーツセダンの雰囲気は味わえる。
■Fペイス:5Lの設定もあるハイパフォーマンスSUV
●価格:717万〜1356万円
ジャガー初のSUVとしてデビューしたのは2015年11月。その年の東京モーターショーで公開され、ピュアスポーツカー「Fタイプ」のテクノロジーとデザインを採り入れたと解説された。
ジャガーのSUVらしく、走りの性能を重視したクルマづくりは、ボディの80%にアルミニウムを使用した、軽量モノコック車体構造を採用。車両重量配分も50:50にほぼ近いバランスに収まっている。
デビュー当初は2LガソリンターボとV6、3Lガソリンスーパーチャージャーを搭載していたが、最新モデルは2Lのガソリン/ディーゼルターボと、V8、5Lガソリンスーパーチャージャーが選べる。駆動方式はすべて4WD。
5Lモデルのパフォーマンスは、SUVの域を超えたピュアスポーツカーの領域といえる。
■Eペイス:スポーティな走りのジャガーらしいSUV
●価格:498万〜698万円
本国では2017年、日本では2018年2月から発売されているミドルクラスSUV。スタイリングもジャガーSUVファミリーを踏襲している。
最近ではジャガーファミリーの中核モデルとして認知されていて、2021年モデルで仕様の大幅改良があり、最新のアーキテクチャーで設計されたプラットフォームに変更。これは電動パワーユニットにも対応している。内外装のデザインも見直され、フロント、リアデザインを変更した。
さっそく、2021年5月にはジャガー初のプラグインハイブリッドモデルを導入。3気筒1.5Lガソリンターボとエレクトリックリアドライブの109psを組み合わせている。バッテリー容量は15kWh、モーターで55kmの走行が可能になっている。
【番外コラム】現行EVのIペイスにみるジャガーEVの今後への期待
Iペイスはジャガー初のピュアEVとして2018年9月に発売。しかし発売前の2018年5月からフォーミュラEの前座レースとしてIペイスのワンメイクレースを開催している。最大20台のIペイスがフォーミュラEの決勝レース前にレースを行なった。ここで得た実戦のノウハウが市販のIペイスに次々と移植された。
こうして登場したIペイスはスタイリングはSUVだが、その走りはピュアスポーツカー。ハンドリングもEVの出来栄えも世界トップランクのモデルだ。ジャガーのEVはレースに裏付けられた本場のスポーツモデルといえる。
【画像ギャラリー】エンジン搭載車廃止まであと3年!! 今こそ知りたい英国の美獣ジャガーの魅力(16枚)画像ギャラリー投稿 2025年に完全EV化 ジャガーの魅力 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。