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「観光庁 令和2年度3次補正予算事業 既存観光拠点再生・高付加価値化推進事業 交通連携型」に則った大型電気バス運行実証試験が令和3年12月に奈良県で行われました。観光庁のウェブサイトによると、「観光拠点の再生に向けて観光分野の事業者と交通事業者が連携し、交通を軸とした観光における地域への誘客促進や付加価値向上を目指す取組を支援します」と、趣旨が謳われています。

このバス停から出発。周遊時間は約30分。バスにはガイドも添乗。

新型コロナウイルス感染症の影響により、危機的状況にある観光拠点が面的に再生できるような取組を短期集中で強力に支援することで、新型コロナウイルスの影響を乗り越え、地域全体の魅力及び収益力の向上を図ることを目的とする観光庁の事業とのこと。

復元遣唐使船の横を通り朱雀門ひろばから出る。

ちなみに、奈良県にEVバスが走行するのは初めてのことでした。

運行ルートは二つ・バスは二種類

本事業のため、二期二つの周遊無料バスルートが設定されました。

学び舎だった都跡小学校前を通過。この場所で電気バスが走る姿を見るときがこようとは。


まず12月4日~10日の7日間は平城宮跡(朱雀門ひろば前)~唐招提寺駐車場~薬師寺駐車場~平城宮跡(朱雀門ひろば前)の周遊ルート。一日16便の設定でディーゼルエンジンバスとの交互運行だったので8便が電気バスでした。

唐招提寺へ向かう。寺は林の向こう側にあるためここからは見えない。

唐招提寺を出て薬師寺へ向かう。

遠くの方に薬師寺の東塔と西塔が見えます。

私には懐かしのバス停、薬師寺東口を通過する電気バス。

大阪・京都・三重・名古屋方面から近鉄電車で初めて奈良に来た方は大和西大寺駅を出発してほどなく両側に現われる広大な土地に「何これ!?」と驚嘆の声を上げる場所、そこが平城宮跡です。

朱雀門ひろば前に戻り約30分の周遊は終了。ダイヤの半分を受け持つディーゼルエンジンバスと離合した。

永年ただの原っぱだったので、この近所の子供たちや家族連れは凧あげや球技を楽しんだものです。荒れた学校同士の決闘の場になったり、今で言う反社会勢力構成員の出所祝いの会場になり機動隊が取り囲んで一騒動あったりということも。良くも悪くも奈良市民の心に残る偉大な原っぱです。

余談。電気バスを待っていると復刻塗装車802が目の前を通過した。この場所でこのカラーリングのバスは感慨深いものがある。

近年は大極殿や朱雀門が復刻されたこともあってか徐々に自由が失われているのが残念。残念と言えば、幼少期には出入り自由で格好の遊び場だった薬師寺や唐招提寺もいつの間にか拝観料をしっかり取るようになったのでフリーに出入りできなくなってしまいました。名寺や神社であっても近所の子供たちの遊び場にもなっていた奈良の良さが失われてしまったのが残念です。

大仏殿バスターミナルから出発。EVバスとディーゼルエンジンバスとの交互運行。

19日から25日の7日間は大仏殿前駐車場~若草山頂駐車場の周遊ルート。

ガイドさんが沿線ガイドをしてくれる。日ごろは観光や定期観光バスに乗務しているので、鹿のマークの観光バスに乗ると会えるかも!

若草山頂に足を伸ばす観光客は多くないように思いますが、日中は生駒山までがすかっと見渡せますし、夜はほどほどの夜景が楽しめます。駐車場から山頂までの遊歩道では闇夜に潜む鹿たちとのナイトサファリ的遭遇も期待できますし、不意に現われた鹿にどつかれるというアトラクションも楽しめます。

大仏池、正倉院をバックに若草山を目指す。

こちらは一日12便でやはり半分の6便が電気バスだったのですが、毎日最終とその前の一本は夜景観賞を楽しめるように若草山頂で30分の停車時間があり、近鉄/JR奈良駅まで送ってもらえるダイヤが組まれていました。

この先は奈良奥山ドライブウェイを登っていく。写真は下りてきたところ。

昼間であれば奈良盆地から生駒山までが見通せる。

日没後の駐車場に待機する電気バス。周囲は真っ暗。

ちなみに、故障修理のため3日間動かない日がありました。

最終便とその一本前は夜景堪能タイムが30分設定されている。遊歩道を歩き、夜景を楽しむにはちょうどよい時間だ。どこから鹿が出てくるかわからないナチュラルナイトサファリな遊歩道を徒歩で山頂を目指す。

夜景はこんな感じ。感嘆の声が上がるような夜景ではないほどほどの夜景が奈良っぽくていい。


夜景堪能便は大仏殿へ戻らず近鉄奈良駅経由JR奈良駅へ送ってくれる。この周遊ルートの所要時間は約1時間10分。




充電はどうしていた?

この点、すごく気になったので奈良交通に訊きました。まさかこのためだけに充電器を設置するわけはないだろうし、もし設置したなら近い将来導入予定があるということになるし、どちらにしても興味がありました。
答えは、2トンパネルバンに搭載されたディーゼルエンジン発電機付き充電器から充電するというものでした。こんなやり方があったんですね。知りませんでした。このディーゼル発電充電器の音と排ガスがすごかった。環境配慮型の電気バスに充電するシステムが騒音と排ガスたっぷりとはなんとも皮肉。



しかしこれはあくまでの臨時なので導入時にはこんなことにはなりませんが、低CO2を謳うEVの不都合な真実をコンパクトに見せられた気がしました。

運転者に訊きました

運行を担当したのは、指導運転者資格を有する運転者から選抜された精鋭。主任指導運転者の上田運転者に「初めて電気バス運転してどうやった?」を訊いてみました。
運行開始前には電気バスの起動、終了方法という電気バスならではの使い方研修と従来型とかなり違う運転感覚に慣れる習熟練習を行ったとのこと。
「排気ブレーキがないことにかなり違和感と不安感がありました。特に下り坂での減速ではできるだけ排気ブレーキを使うように指導されていますので。若草山ルートの下りにはかなり不安がありましたが、特に問題は起こりませんでした。体に染みついている、流れるような運転操作から外れる操作を強いられることにも違和感があります」
とのことでした。
「それと、ピラーが太すぎて安全確認が非常にしづらいのが困ります。ピラーの向こう側をがんばって確認しようとしても見えない」
運転席に座らせてもらいましたが、確かにすごく見づらい。
EVを運転したことがある人は必ず言う、ゼロキロ加速感とパワー感はどうか?
「確かにアクセルを踏んだ瞬間の出足はすごくいいですが、その先が伸びる感覚はありません。それは段のある出力特性のためかもしれませんね」。
最後に匂いについて訊いてみました。バステクフォーラムで試乗したときにも思ったのですが、私はあの車内の独特の中国フレーバーが嫌で5分も乗っていられません。かなり違う匂いであることもさることながら強烈だし何か体に悪いものを吸わされているように思えます。
「私は割と平気でしたが、担当運転者やガイドの中には、『もう無理、耐えられへん』と言ってる人が何人かいますね」
もし導入するなら内装は全部日本製にしてもらいたい。そうでないとバス会社の評判が落ちる。ディーゼル路線バス比で倍の車両価格も補助金なしでは買えないので、そう簡単には導入されないと思いますが。
メーターパネルの表示も日本語ですし、日本の輸入元が最終架装を日本で行っていることもあり、フィニッシュは悪くありません。運賃箱、押しボタンなどの機器類も日本メーカー製のものが装着されているので違和感はありません。

乗り心地はどうか?

あまり良くないのが正直なところです。
ブレーキング、特に下り坂の時に感じる、重量物に後から押されている感覚にかなり違和感がありますし、フロントが沈み込んでリアがぐいと上がる感覚は着席場所や人によっては酔ってしまうかも知れません。
これは運転者のコメントにもあるように排気ブレーキやリターダーがないことが要因です。それらは駆動輪、つまり後輪に効くので、後から引っ張られる感じで減速しますが、フットブレーキだけだとそれがないので、遠心力で後から押されるためです。路面状況によっては後輪荷重が抜ける(浮き上がる)分不安定になることも想像できます。

奈良交通の過去と未来を並べる

実証運行の担当は奈良交通奈良営業所でした。奈良営業所と言えば、奈良交通の文化遺産であるボンネットバスがある営業所です。せっかくの機会なので並べてみました。奈良交通ならではの景色です。








こんなスペックでした

最後に寸法データをJバス製大型路線バス(ディーゼルエンジン車)との比較で紹介いたします。

全長×全幅×高さ(mm):
EVバス=10,480×2,485×3,260
Jバス(N尺)=10,480×2,485×3,045
Jバス(Q尺)=11,130×2,485×3,045
ホイールベース(mm):
EVバス=5,500
Jバス(N尺)=5,300
Jバス(Q尺)=6,000
最小回転半径(m):
EVバス=9.0
Jバス(N尺)=8.3
Jバス(Q尺)=9.3
車両総重量(kgs.):
EVバス=19,500
Jバス(N尺)=14,045(AMT)・14,115(AT)・14,535(ハイブリッド)
Jバス(Q尺)=14,715(AMT)・14,785(AT)・15,205(ハイブリッド)

運転者インタビューの際に、「幅が広いから運転しにくい」とのコメントがありましたが、スペックを比較してその理由がわかりました。
全長はN尺と同じなのにホイールベースとN尺より200mm長く、最小回転半径が0.7m大きいのでこのようなコメントになったのだと推察します。運転者はセンチメートル単位でバスを動かしているのでこの差は大きい。
(注:バスドライバーのことを奈良交通では運転者と呼ぶためこの記事では社内呼称に倣いました)
(取材・写真・文:大田中秀一)

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