2022年シーズンのWRC世界ラリー選手権開幕戦、ラリー・モンテカルロで優勝したフォード・プーマ・ラリー1(Mスポーツ・フォードWRT)は、WRCで総合優勝した最初のSUVとして歴史に名を記した。
これまで、SUVはWRCマシンのベース車には向いていないとされてきた。SUVらしい堂々たる見た目をアピールするための分厚いボディと大きなキャビンが、空力と重心の両面でどうしても不利になりやすいからだ。実際、過去を振り返ってみてもWRCで成功したSUVはない。
近年は、普通のハッチバック車に近いボディ形状の“クロスオーバー”と呼ばれるSUVが増えていて、WRCでもMINIカントリーマン(日本名:クロスオーバー)や、スズキSX4をベースにしたマシンがWRカーの時代に登場した。
しかし、いずれもライバルより大きなキャビンがネガティブな要素として働き、またチームのゴタゴタもあって成功を収めることはできなかった。
では、なぜプーマ・ラリー1が成功したのかというと、ふたつ大きな理由がある。ひとつは、ベース車であるフォード・プーマ自体が普通のコンパクトハッチバックに近いボディ形状で、しかもルーフ後端が下がったクーペスタイルであること。フロントウインドウもかなり傾斜していて、車体上部の形状に関しては普通のコンパクトハッチバックと変わらない。
そしてもうひとつ。ラリー1となってレギュレーションが大きく変わり、市販車のモノコックをベースとする必要がなくなり、パイプフレームにアウタースキンを被せる手法も選べるようになったことも大きな要素だ。それによってシャシーの設計自由度が格段に高まり、全長やホイールベースなど、ボディのディメンション自体を大きく変えることも可能になった。
その昔は、車高が低いスポーツカースタイルのクーペが若い人たちに人気だったが、今はSUVがそれにあたる。実際、プーマ自体も昔はコンパクトクーペだったが、今はクロスオーバーSUVとして人気を博している。
競技車両設定の自由度が高いラリー1規定の導入により、またプーマが優勝したことで、WRC参戦を検討するマニュファクチャラーに対する敷居は、下がったといえるだろう。
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