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長く使う働くクルマだから! ひっそりとホンダが支えるアクティトラック部品再販の裏側

 ホンダが『第19回 国際オートアフターマーケットEXPO 2022』に「純正部品の復刻販売」を展示した。その展示内容は、ビートとアクティトラックの部品を再販していることをアピールするための内容だった。

 トヨタ スープラ、日産GT-R、マツダ ロードスターなどが部品再販で話題となっているが、ホンダも実はひっそりと部品の再販を行っているのだ。

 この部品再販というものが、いかに大変なことなのか? というメーカーの努力と、どのような部品が再販されたのか? ほかにもある部品再販について今回は迫ってみる。

文/高根英幸
写真/HONDA、MAZDA、NISSAN

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■60点のパーツを復刻させたアクティ 現場の声に応えた動き

2021年6月に販売を終了したホンダ アクティ

 ホンダのアクティトラックは2021年6月に販売を終了してしまったが、地方の農家などでは先代モデルなどを未だに乗り続けられているそうだ。そこでホンダは2020年からHA1~HA4型の2代目アクティトラック(1988年~1999年まで販売)の60点のパーツを復刻生産している。

 これはユーザーの安全性確保のため「走る・曲がる・止まる」に関わる部品は供給して欲しい、という現場からの声に応えたものだと言う。

 そもそもホンダは日本の自動車メーカーのなかでは、純正部品の供給期間が長いブランドだった。それはオートバイでもクルマでも1960年代に生産されたモデルをオーナーが大事に乗り続けていたことも影響していた。

 1990年代でもオーナー自身で旧車のレストアやオーバーホールを行なう際に、さまざまなパーツを取り寄せることが珍しくなかったのだ。

 トヨタや日産などほかの自動車メーカーは、ホンダと比べるとドライな対応だった。かつてのクルマたちもほとんどがスクラップとなってしまったのは、クルマの老朽化や新型車の高性能化だけでなく、パーツが手に入らないという理由も少なくなかった。

 日産車などでは廃番しているパーツが多いため、北米の部品業者が独自に生産しているパーツを日本で手に入れるオーナーも多かったのだ。

 いすゞは20年前に乗用車市場から撤退しているが、全国のサービスセンターでは純正部品の供給や整備を受け付けており、未だに多くのパーツを供給できると言われているから、アフターサービスとしては素晴らしい。ただ、それでも限度はあるだろう。

■生産終了からどれくらい、パーツは保有されるのか

アクティトラックよりひと足先に純正部品の復刻販売が始められたホンダ ビート

 家電製品などは日本では補修部品の保有期間をメーカーに義務付けており、製品の種類によって5年から9年という期間が定められているが、クルマにはそれがない。生産終了から10年で廃番となる部品があるクルマもあれば、15年、20年と供給され続けるクルマもあるのだ。

 人気があって、安定して補修部品がオーダーされる車種の部品は比較的長く保有されている傾向にある。しかし、それでもいずれは廃番となるパーツが増えて、ほとんどの補修パーツは手に入らなくなってしまう。

 どうしていつまでも補修部品を保有しておけないのか。それは実はさまざまな理由がある。まず誰でもイメージできるのが、自動車メーカーが部品を管理するコストだ。

 昔は小さな部品一つひとつオーダーして、それを整備工場で組み立てて、部品交換するような修理だったが、最近は部品がモジュール化されているだけでなく、補修部品は小さな部品は組み立て済みでアッセンブリーパーツとして供給されるケースがほとんどだ。これは部品の種類を減らして管理を簡素化するため。

 何しろ自動車メーカーはさまざまな車種の2、3世代のグレードごとに異なる部品まで管理しているのだ。それを全モデルで行なっているのだから、管理のコストだけでも結構なものになる。

 新車販売で得られる利益も、こうした部品の管理コストで目減りしてしまうと、企業としての体力はどんどん奪われることになってしまう。そのため売れるクルマ作りだけでなく、社内のコスト圧縮策として過去の販売車種へのアフターサービスが問題視されるのだ。

 その結果、生産終了から10年ほどが経過すれば、パーツの販売個数も少なくなっているので、見切りをつけられてしまうのである。

 さらには、自動車メーカーだけの問題ではなく、部品メーカー側の事情もある。実際に部品を生産し、自動車メーカーに納入する部品メーカーにとって、金型を保管しコンディションを管理して必要に応じて生産機械にセットしてパーツを生産し、納入するのは大変だ。

 現時点で生産しているモデルの部品生産をしながら、その合間を縫って違うパーツを生産するのだから。自動車メーカーが在庫したくても欠品となってしまうパーツが増えていくのは、そのあたりも影響しているようだ。

■欧米との違い、今後旧車パーツの再生産は広がるのか

マツダも写真の初代ユーノス・ロードスターやRX-7(FC/FD)のパーツ再生産を行なっている

 例えばメルセデスベンツはこれまで生産してきたモデルのほとんどの部品を供給できることで知られているが、その代わりに毎年のように部品の価格は上昇しており、古いクルマほどパーツの価格は高価になっている。

 逆に歴史やブランドが豊富なイギリス車は、ローバー・ミニこそ英国の部品メーカーや日本の部品商社が部品の生産を続けていてほとんどのパーツが揃うが、大半のブランドが消滅している現在、絶版ばかりの惨状だ。しかしマニア間でのやりとりが昔から盛んなので、世界中で探せば大抵のパーツは見つかるらしい。

 これからはポルシェのように、過去の設計図から3Dプリンターで部品を復刻するサービスを開始するところも、増えてくるのではないだろうか。

 なぜなら昨今の旧車ブームにより、1980年代、1990年代の日本車の部品需要が高まっていることに自動車メーカーが対応するケースが増えてきている。

 事実、トヨタはGRブランドで旧車パーツの再販売を始めており、70/80スープラやAE86レビン/トレノ、そしてトヨタ2000GTのパーツが復刻して販売されている。これらの中には3Dプリンターによって製作された部品も含まれるのだ。

 マツダも初代ユーノス・ロードスターやFC/FD RX-7のパーツの再生産を行なっている。このあたりは根強いマニアが多く、最近人気が再燃しているから嬉しいものだ。

 ホンダは初代NSXを徹底的にオーバーホールするリフレッシュプランを用意しており、ビートも部品の再販売を行っているが、シビックやインテグラのタイプRなどまだまだクルマ好きには人気の車種でも純正パーツの供給が終了してしまっている状態だ。

 日産は金型を使わずにボディパネルを製作する技術を開発し、R32型スカイラインGT-Rのボディパネルを供給するなど既存技術だけでなく、新しい方法まで導入して旧車オーナーの要望に対応しようとしている。

 また関連会社であるニスモやオーテックジャパンと協力し、第2世代のGT-Rと呼ばれるR32型からR34型のスカイラインGT-Rの部品の再販売を行なっている。実際にはこれは新車時に部品を製造していた部品メーカーも協力することで成り立つものだ。

 それでもGT-R以外のモデルについては、今でも人気のスポーティなモデルであってもパーツは廃番がほとんど、という車種もたくさんあるから、クルマ好きにとってはパーツの再生産を望みたい車種はたくさんある。

 だが、何でもかんでもパーツを再生産すれば、前述のように管理コストや生産コストが膨れ上がり、自動車メーカーや部品メーカーはむしろ業績を落としかねない。そうなったら本末転倒で、順調に売れていた旧車用のパーツさえも、供給が途絶えてしまう可能性だってあるのだ。

 旧車のパーツは今までが壊滅的だっただけに、当分は改善方向に向うだろうが、それでもある程度のレベルでサチュレート(飽和状態)していくだろう。自動車メーカーや部品メーカーができることには限界がある。

■パーツが再生産されれば、自動車文化が続いていく

アクティトラックのような実用車の純正部品が再販されれば助かるのはもちろん、往年のスポーツカーのような趣味のクルマの部品再販も増えてほしい

 ル・マン クラシックなど伝統のモータースポーツイベントの歴史を振り返って楽しむヒストリックカーのレーシングイベント、パレードラン的なイベントも海外では盛んで、日本でもジワジワと広まりつつある。

 ところで日本でも極一部のマニアだけが楽しんでいた、古くても個性的で運転することが楽しいクルマに注目が集まるようになったのは、どうしてなのだろう。それはどのクルマも出来がよく、装備も充実していて何の不自由もない便利なクルマに物足りなさを感じているからではないだろうか。

 現時点でも設計データさえあれば、ほとんどの部品は3Dプリンターで製作することは技術的には可能だ。

 しかし金型で大量生産されたモノと同じでも価格は十数倍になってしまう。他車用を流用できるものは流用し、社外品やチューニングパーツなども積極的に利用すれば比較的維持コストを抑えることはできる。仲間内で部品取り車を確保するのも、マニアあるある、な話だ。

 燃料の価格が上昇し続ける現在、趣味としてクルマを楽しむ傾向はむしろ強まり、個性的なクルマを求める人は増えるのではないだろうか。EVが実用的な足へと発展していくいっぽうで、趣味のクルマはよりディープな方向へと向うのだ。

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