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四角いデザインはなぜ減った? クルマのカタチはどう変わる?

 時代は空力性能の高そうな“丸っこいクルマ”の最盛期。かつて主流だった“四角いクルマ”はもはや絶滅の危機に瀕しているのだろうか? この記事では、クルマのカタチ、特に乗用車のシルエットが丸くなっている現状を考えるとともに、以前は人気を集めていた四角いクルマとその後継車を紹介し、デザインがどのように変化したのかを見ていくことにしたい。

文/長谷川 敦、写真/日産、トヨタ、フォルクスワーゲン、ホンダ、三菱自動車、FavCars.com

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エコっぽい外見が現代車の必須条件?

四角いデザインはなぜ減った? クルマのカタチはどう変わる?
名称からして四角いのが日産 キューブ。写真は1998年登場の初代モデルで、この頃から、四角いことが丸めの他車に対する差別化になっていたことがうかがえる

 最近、街中で“四角いクルマ”を見る機会が減っている気がしないだろうか? 「いやいや、トラックやミニバンなど、四角いクルマはまだまだある!」と言う人もいるとは思うが、ここで考えたいのはセダンに代表される乗用車のハナシ。ただし、今やセダン自体がミニバンやSUVに押されて減りつつあるというのは、ひとまず置いておいてほしい。

 以前のセダン(と言っても何十年の前だけど)は、箱型の車体に箱型のキャビンを組み合わせたようなデザインが多かった。プレス成型で製造されるセダンのボディは直線基調のほうが作りやすく、室内空間を大きくしたい場合にも箱型は有利だった。また、フロントガラスもあまり複雑な曲面にしないほうがコスト(=販売価格)を抑えることができた。「ハコ車」という言葉も、このようなクルマの形状が由来だ。

 こうした理由から、乗用車の多くが箱型フォルムを採用し、その条件下でどうしたらカッコ良く見えるか? を工夫してデザインしてきたという歴史がある。だから昔の四角いクルマは、武骨ながらもカッコいいのだ。もちろん、美醜のジャッジは完全に個人の主観だから、丸っこいデザインのほうがカッコいいという意見もあり、現代はそれが多数派になったとも考えられる。

 曲線基調のクルマが増えてきたのは、製造技術の進化も後押しになっている。シンプルな直線ではなく、曲線を描くボディを以前よりも安価で製造できるようになり、それはガラスも同様。同じコストで作れるなら、人気が高く売れるデザインを採用するのはメーカーとして当然だろう。

 そして現代はエコ時代。クルマの空力性能を高めれば燃費も向上し、排気ガスの抑制やガソリン消費量の軽減につながる。実際には直線基調のクルマでも工夫次第で空力性能を上げることができるのだが、いかにも空気をスムーズに流しそうな曲面デザインのほうがエコに見えるのは否めない。それが四角いクルマには向かい風になったと言える。

ムカシの四角いクルマはこんな魅力的!

四角いデザインはなぜ減った? クルマのカタチはどう変わる?
レースバージョンは「走る弁当箱」とも呼ばれたボルボ240。そのスタイルは「四角い」としか言いようがない。これで速かったのだからカッコいい

 みなさんは“四角いクルマ”と聞いてどのモデルを思い出す? 筆者のアタマに最初に浮かんだのはボルボの240だった。1980年代に販売されていたこのクルマは、四角いフォルムが多かったこの時代のなかでもひと際角ばっていた。しかし、抜群に速いクルマでもあり、1985年に日本の富士スピードウェイで開催されたハコ車のレース「インターTEC」でワンツーフィニッシュを飾っている。その姿から海外では「Flying Brick(空飛ぶレンガ)」と呼ばれ、日本では「走る弁当箱」とも言われた。

 世界中で売れた四角いクルマの代表格はフォルクスワーゲン(VW) ゴルフの初代モデルだ。丸いほうのクルマの筆頭ともいえるVWビートルの後継車として誕生したゴルフは、先代とは180度イメージが異なる四角いフォルムで登場し、駆動方式もビートルのRRからFFへと変更された。実用性も高かった初代ゴルフは、今でも歴史に残る大衆車の一台に数えられる。

 四角いセダンではメルセデスベンツの190Eあたりが思い出に残る。そして2ドア車ながらかなり四角かったのがBMW M3。前出のゴルフを含め、四角いクルマはドイツ車に多いという印象もあるが、イタリアのフィアット パンダ初代モデルも実に四角いクルマであった。

 1980年代までは、スポーツカーでも四角いクルマがたくさんあった。たとえば日産シルビア。後年には流れるようなボディラインの美しさで人気を集めたシルビアも、1983年登場の4代目S12型はずいぶん角ばったフォルムをしている。それでも十分にスポーティな外見であり、実際速そうに見えた。

 トヨタ初の量産ミドシップモデルのMR2(AW11型)だって、今見るとかなり角ばっていることに少々驚かされる。同時代のセダンに比べれば車高も低く、流線型とも言えるが、四角いクルマの仲間に入れてもおかしくはない。

四角い乗用車の復権はあるのか?

四角いデザインはなぜ減った? クルマのカタチはどう変わる?
現在最も売れているクルマのひとつであるスズキ ジムニーシエラ。ご覧のとおりスクエアなフォルムで、丸くなければ売れないというわけではないことを証明した

 さてここで、ミニバンやSUVに目を向けてみよう。四角いSUVの代表で、いまだに長期納車待ち状態になっているのがスズキのジムニー&ジムニーシエラだ。このクルマがどこからどう見ても“四角い”のは間違いなく、これが人気の一因にもなっている。つまり、やりようによっては四角いデザインでも十分に現代で通用するということ。

 そして2022年1月7日に世界初公開された新型ステップワゴン(正式発表発売は今春予定)はシンプルにすごく四角い。この新型ステップワゴンが大ヒットすれば、それを起爆剤として四角いクルマが復権する可能性も大いにありそうだ。

 ミニバンは四角いのが基本とも言えるが、一時期は「天才タマゴ」のキャッチフレーズで販売された初代トヨタ エスティマ(1990年)のように、丸さをウリにしたモデルも存在していた。しかし、ミニバン本来の用途である大人数での乗車&荷物積載量の多さを考慮すると、自然に角ばったフォルムになり、現代でもミニバンは四角を基調にしたデザインが多い。

 ではセダンやコンパクトカーなどの乗用車はどうだろう? 現状で日本をはじめとする世界の乗用車はやはり丸い。これには冒頭で説明した理由があるのだが、時代によって流行が変化するのもまた事実。つまり、将来的に四角いクルマが流行るという可能性も否定できない。シャープなイメージとともに未来の街を走る四角いクルマ。そんな風景を想像してみるのも楽しい。

エアー(左)とスパーダ(右)の2モデルが発表されたホンダの新型ステップワゴン。視界確保のためAピラーの角度がかなり急で、これが“四角感”を強めている
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