2022年2月上旬に「日産がガソリンエンジンの開発を終了」というショッキングな報道が流れたが、日産は後の決算会見でこれを否定している。しかし世界的な電動化の流れの中で、今後ガソリンエンジンが削減されていくように見えるのも事実。
とはいえ、すぐにすべてを電気自動車にすることもあまり現実的とは思えない。インフラの不足に加え、EVに必要な電力も不足しているのは間違いないからだ。果たしてこの先ガソリンエンジンはどうなってしまうのだろうか?
文/小林敦志、写真/ベストカー編集部
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■作戦成功? 欧州委員会が方針転換
日系完成車メーカーのHEV(ハイブリッド車)を除く、電動車=PHEV(プラグインハイブリッド車)・BEV(バッテリー電気自動車)・FCEV(燃料電池車)のラインナップが不足している。
欧米や中国、韓国メーカーの動きに対して、軽く周回遅れ以上に見えるのはいまさら語るべきことではないだろう。しかし、この状況が徳川家康のように、“鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギス”的な作戦だったかのように見えてくる事態が発生した。
2月2日(現地時間)EU(欧州連合)の欧州委員会は、原子力発電(以下原発)及びLNG(液化天然ガス)発電について、持続可能とする“グリーンエネルギー”として認めることを発表している。
これまで、“脱炭素社会”の実現を声高に表明していたEUであるが、一転して化石燃料であるLNG発電をグリーンエネルギーとして認める発表について、加盟国のなかではまさに大騒ぎとなっている。
そもそもEUを含む欧州の脱炭素社会実現への動きは、気候変動対策などをエキセントリックに叫ぶ若者や環境保護団体がフォーカスされがちであるが、それだけがこの動きを支えているわけではないともいわれてきた。
20世紀から続くいまの産業構造を変革させて、次世代の産業におけるリーダー的立場に欧州を位置付ける、つまり“ゲームチェンジャー”になりたいとする、欧州の一部勢力も活発に動いているとも聞いている(つまりは金儲け)。
中国がゼロエミッション車の開発及び普及に積極的な姿勢を示すのも、内燃機関搭載車では欧米や日本、韓国を追い抜くことが厳しいので、ゼロエミッション車でリーダーになろうとしていることも大きく影響しているとされているのと、様子は似ているようにも見える。
欧州では2035年に内燃機関車の販売を全面的に禁止するとしている。しかし、多くの人がその動きを懐疑的に見ているのも事実、「そんなことできるのか?」とである。
2022年2月24日、ロシアはウクライナへの軍事侵攻を開始し、本稿執筆時点では収束の気配すら感じない。このロシアの軍事侵攻により、欧州いや、世界のエネルギーバランスが崩れ、車両電動化の流れをさらに不透明なものにしていくのではないかともいわれている。
しかし、今回LNG発電をグリーンエネルギーとして認める方針をEUは表明した。これこそまさに“ホトトキスが鳴いた(少し話が後退した)”であり、日本メーカーが、ホトトギスが鳴くのを待っていたなら、相当の策士ともいえるのだが、実際はそうではないようなので残念なところでもある。
■EV化への世界の動き
最近日産自動車がエンジン開発を終了するというニュースが流れたが、それは欧州向けに限ったことであるとしている。どのような経緯で全面開発終了というニュアンスの報道になったかは定かではないし、少々雲行きは怪しくも見える。
2035年に内燃機関車の販売を全面禁止するEUのエリアは限定的にも見えるが、現状世界一の自動車市場である、世界で最もBEVが普及している中国も2035年に内燃機関車の全廃を打ち出している。
しかし、世界第二位の市場となるアメリカのバイデン政権は2030年に新車販売総台数のうち半分をゼロエミッション車にするとしている。
世界第三位の自動車市場となる日本は、2030年代半ばまでに、HEVやPHEV(つまり内燃機関を搭載している)も含み、電動車以外の販売を禁止するとしている(いまのところ)。
日本を追い抜く日も近いとされているインドでは、2030年に完全車両電動化すると打ち出したあと、完全電動化ではなく全体の40%にするなどと勢いを失っている。ほかの諸外国でも「●●年までに」と車両電動化に関するアピールも聞かれるが、「言うだけタダ」的な雰囲気が漂うケースも目立っている。
車両電動化では欧州に勢いがあるので、2035年に地球上から内燃機関車がなくなってしまうようなイメージも伝わってしまうが、いままでの話は新車販売についてであり、「2035年になったら乗ってはいけない」としているわけではない。
欧州ではクルマを長く乗り続けることが多く、少し前に某大都市を訪れた時には町じゅうにディーゼル車の排気ガスの臭いが漂っていて驚いたことがある。
どちらにしろ、地球レベルで見れば内燃機関車の新車販売を全面禁止するまででも、時間を要することになるので、とくに後進国へ向けてのより燃費及び環境性能の高い内燃機関の開発はさらに重要性が増すように感じてならない。
新興国や後進国でも“地球環境保護”との名のもとに、気候変動対策やSDGs(持続可能で多様性のある社会の実現へ向けた17の目標)への取り組みへの積極的参加が国際社会から求められている。
しかし、それらの国々の一部からは先進国からの押し付けが強いとし、「新たな植民地政策のようだ」と感じるとの声も出始めている。そのような国々でも車両電動化へ向け活発に動く勢力があるというのだが、「環境性能に優れる内燃機関を開発及び製造できる日本勢へのけん制」と見る向きもある。
■日本のお家芸『HV系』はどうなる?
最新の日系PHEVに複数試乗すると、その優秀性に舌を巻いた。BEVでは出遅れムードが目立っているものの、PHEVでは十分勝機があるなと感じた。それも、HEVを数多くラインナップし、さらに効率の良い内燃機関を開発できるからといっていいだろう。
だからこそ、欧州や中国はBEVにこだわっているのかもしれない。LNG発電の例ではないが、そのうち欧州で「PHEVも継続販売OK」となれば、見えてくる風景はかなり変わってくることになるだろうが果たして……。
環境だけでなく人体に有害ともされた“有鉛ガソリン”の販売が地球上で全面的に廃止となったのは2021年、つまり“つい最近のこと”なのである。この例を見れば地球レベルで車両電動化を進めるためには、相当腰を据えなければならないだろう。
日本国内での車両電動化の動きは、“風任せ”といった雰囲気が強いのだが、政府では“はたらくクルマ”の車両電動化へも購入補助をするなど、スローペースながら進んできている。しかし、日系モデルのPHEVやとくにBEVのラインナップ不足はまだまだ目立っている。
トヨタやスバルから登録車規格のSUVタイプBEVが、日産や三菱から軽規格のBEVがすでに年内に発表予定となっており、2022年を“日本における電動車普及元年”と称する動きもある。しかし、ラインナップが充実し、購入補助金などが充実してもそれだけでは普及はなかなか進まないだろう。
夏に記録的な猛暑となった時の冷房多用や、冬の大寒波襲来での暖房に(トルツメ)多用などへの電気使用量の増大で、電力供給がひっ迫し余力のある電力会社から融通してもらうというのはよくある話。巷ではこの話を持ち出して、「このような状況で電動車を増やして大丈夫なのか?」といった話はよく聞く。
車両電動化への動きは、自動車産業の100年に一度の大変革のひとつともいわれている。長らく化石燃料に頼っていたのを、ここまで車両が普及した段階で、電動車へ変換していくのだから、ことは自動車産業だけでなく、各国のエネルギー供給体制にもかかわってくる。
さらにいままでの化石燃料由来の発電では、出口が違うだけで、CO2は排出され続けることになる。
では原発を増やしてとなりそうだが、日本だけを見れば、原発を増やすどころか休止している原発の再稼働することすら難しい。車両電動化よりも、化石燃料による発電をゼロエミッションの発電へ転換するほうが、かなり大変に思える。
■国内でのEVへの興味は深いが……
一般消費者の間では、いわゆる“電気自動車”への抵抗などはなく、むしろ興味津々といったところ。
しかし、現状では集合住宅での充電施設設置がかなり困難なことや、急速充電施設などでの“充電渋滞”などなど、ネガティブ情報のほうが耳に入りやすいので、「どうなっているの?」と不安に思う気持ちが優先してしまっているのが現状。
売るほうとしても、内燃機関車よりは面倒なことが現状では多いのは確かなので、クレーム回避もあり積極的に販売することができない。
日本はデジタル社会という面でも遅れているとされているが、あるテレビ番組で「政府への国民不信がデジタル社会実現を遅らせている」と識者が発言していた。本稿執筆中も航空会社のシステム不具合や、メガバンクのシステムトラブルといったニュースが飛び交っている。
しっかりとシステム管理ができていない現状を見れば、デジタル化による情報漏洩などの不安が高まるのももっともな話。
電動車普及についても、現状でもちょっとしたことで電力供給ひっ迫になるのに大丈夫なのかなどの不安に政府は明確な説明を行ってきていない。しかも、現政権は一度発表した政策などでも、少しでもマスコミや国民から不満が出れば方針変更することが相次いでいる。
軌道修正を否定するつもりはないが、その頻度が多すぎると、「電動車しか買えなくなるといっているが、結局“弱者救済(電動車は高い)”などとして内燃機関車も引き続き買えるようになるのではないか」と、政府が梯子を外すような動きをするかもとなれば、電動車普及はなかなか進まなくなりかねない。
■海外でのEV普及への方策は
タイのNEVPC(国家電気自動車政策委員会/このような組織が政府内にできている)は2021年3月に、2025年に年間ベースで105万1000台の電動車生産をめざし、国内での電動車利用台数を105万5000台にするとしているから、大部分の電動車を自国産で賄いたいとする方針を発表した。
そして、2022年2月になると、その具体的なロードマップが示された。電動車導入初期段階では海外からの電動車輸入で普及促進を図るため、輸入関税の引き下げを行うとのこと。
次の段階としては、自国内生産した電動車を自国内普及させることを優先し、そのあとに自国生産した電動車の輸出を開始するとのことであった。また電動車については、車両に課税される物品税の引き下げも行うとしている。
さらに内燃機関車を所有するユーザーが速やかに電動車へ移行できる体制作り、充電施設の拡充なども行うということであった。
タイは現在でも、“ASEAN(東南アジア諸国連合)のデトロイト”ともいわれ、自国ブランドの量販完成車メーカーはもたないものの、世界のメジャー完成車メーカーの工場が数多く存在する。
タイ政府は今回の車両電動化の動きを敏感にとらえ、電動車生産に必要な部品についても国内で賄えるようなサプライチェーンの構築も進めており、いち早く電動車の生産集積地としての地位も獲得しようとしている。
具体的なスケジュールや数値、そして何を政府が行っていくのか、実に明確にタイ政府は自動車産業が自国にとって重要基幹産業であることを理解して表明している。日本より早くタイのほうが車両電動化は進んでいきそうな“勢い”をまさに感じる。
■伝わらない日本政府の『EV本気度』
一方で日本政府は何をどのように進めたいのかなど、実際にしっかり考えているものと信じたいが、それをメッセージとして発信するのが実に下手なように見える(一般国民に伝わらない/ここだけは民間のエキスパートの助けを積極的に得てもいいのではないかと考える)。
日本以外の国々の車両電動化の様子を見ると、官民一体となったまさに“国策”のように進んでいるように見える。日系完成車メーカーは電動車ラインナップの拡充はできるがそれだけ。国民の政治不信解消はできない。政府と国民の信頼回復は、政府でしかできないこと。
車両電動化の進む欧州では、すでに既存の自動車部品会社などでリストラなどの失業問題が発生し、2022年からはこの傾向が完成車メーカーに波及するのではないかとされている。
そのため職を失った内燃機関系の技術者が電動車関係のエンジニアとして働ける職業訓練所のようなものを開設する国も出てきていると聞く。ことは“マイカーがガソリンから電気で動くことに変わるだけ”では確実に終わらないのである。
日本において、国民のなかには雇用問題などについて政府が“見て見ぬふり”をするのではないかと不安に思う人もいるはず。
車両電動化の進め方次第では、日本の自動車産業のステイタスが大幅ダウン、つまり日本の家電製品の二の舞が起こることも十分あり得るのである。自動車産業はすそ野が広く、日本の重要基幹産業であり、なぜ焼け野原となって再出発した戦後日本が自動車産業に活路を見出したのか是非政府は再認識してほしい。
ただ、政府への信頼回復も現状を見ればなかなかハードルの高いものだと思わざるを得ない。
しっかり政府が情報発信を行い、なぜ電動化が必要なのか、そして国民にはどのようなメリット(あるいはデメリット)があるのか(ここ重要)、そして政府は何をするのか具体的なロードマップを提示し理解してもらうこともハードの普及と同時進行で行うべきではないかと考える。
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