資源が乏しく、少子高齢化が進む日本が今後も発展していくには「科学技術」が重要であることは論をまたない。しかし日本の科学技術が、世界のなかで相対的に低下していることを示すデータは数多い。無駄や失敗の連続である地道な基礎研究にこそ、世の中を変えるイノベーションが隠されている。人類の科学技術の歴史を紐解けば明白である。研究の担い手が減っていくなか、日本がイノベーションを創出し続けるには産官学の連携が欠かせない。政府は科学技術立国を成長戦略の要とするのならば、国を挙げてエコシステムを作り上げる覚悟が必要である。
岸田政権は昨秋、成長戦略の第一の柱として科学技術立国の実現を挙げ、科学技術分野の人材育成や、10兆円規模の大学ファンドを創設して世界最高水準の研究大学の形成を目指す考えを示した。耳ざわりのいいお題目だけで終わらぬよう、産学を巻き込んだ具体策を相次ぎ立案し、実行に移してほしい。でないと欧米に追い付くどころか、量だけでなく質でも中国など新興国に追い抜かれてしまう。かつて日本が強かった化学分野の上位10%論文のシェアは、すでに中国、韓国に抜かれている。挽回は不可能ではないだろうが、手をこまぬいていられる時間はない。
これまで日本は化学を含め数多くノーベル賞受賞者を輩出し、世界に多くのイノベーションをもたらしてきた。ただ、それらの多くは20~30年以上前に始められた研究の成果であり、基礎研究の積み重ねが花開いたものだ。しかし大学の研究現場では、この20年ほど基礎研究が軽視され、成果が見えやすい応用研究や流行の分野に偏重してきたきらいがある。
たとえば光硬化技術。UV(紫外線)などを使って樹脂を固めたり、近年は分解や加工、ウイルス殺菌といった分野に広がっている。熱などの大きなエネルギーも必要とせず、半導体、ディスプレイ、高度通信など次世代の材料創出に有望な技術として注目される。しかし、この古くて新しい技術について日本の第一人者である大学教授は「基礎研究が絶滅危惧種になりつつある」と現状を嘆く。
基礎研究の根幹である大学や研究機関が、その使命を全うし、研究者たちが生き生きと自由闊達に研究を続けられるエコシステムを整備することに、国は全力を挙げるべきではないか。そして民間企業も、強力に基礎研究を推進できるよう研究開発の姿勢を見直す必要がある。国はそうした産官学が連携できる仕組みを用意することに専念する。それこそが目指す科学技術立国の実現への近道であろう。
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