2022年3月18日、アウディが、新型EVのA6 Avant e-tron conceptを発表。市販を前提としたモデルで、急速充電ステーションでわずか10分間充電することで約300kmも走行できるという。
そこで、本稿では、アウディ本拠地のドイツ国内事情、超高性能急速充電の開発経緯などを解説しつつ、将来のEVゲームチェンジャーとなるのか、そして日本で導入することは可能なのかについて考察していく。
文/御堀直嗣、写真/Audi
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アウディA6 Avant e-tron concept発表!! ドイツ交通事情と関係あり?
ドイツのアウディは、数年後の発売を目指すA6のステーションワゴン型電気自動車(EV)e-tronのコンセプトカーを発表した。ビジネスクラスに属するEVであるとし、それに見合った造形や性能であることを強調している。
ドイツには、カンパニーカーと呼ばれる福利厚生があり、これは役職の地位に見合ったクルマを通勤など含め仕事での移動用に企業が提供する制度だ。アウディならA6、メルセデス・ベンツはEクラス、BMWは5シリーズといった車種が、上級職の人たちのカンパニーカーとしての選択肢となる。それらの枠組みのなかから、好みの車種を選べる。この制度も、年俸の一つに含まれる。
同時に、ドイツでは年間3万km走行することが日常的であり、一充電走行距離の長さが必要になる。A6アバントe-tronが世界的に高い人気を保持するSUV(スポーツ多目的車)ではなくステーションワゴンである意味が、そこにある。アウディによれば、SUVに比べステーションワゴンの方が空気抵抗は小さく、その分、一充電走行距離を延ばすことができるという。速度無制限区間で時速200kmを超える移動が現実のドイツならではの商品性だ。
加えて、270kW(キロ・ワット)による急速充電に対応し、10分の充電で300kmの走行を可能にするとのことだ。A6アバントe-tronの一充電走行距離はWLTPで最大700kmとされており、1回充電すれば1000kmになる。ディーゼルターボエンジン車で約1000km走れる移動が染みついたドイツ人にとって、朗報といえる。1000km移動する間に、一度くらいはトイレ休憩もするだろう。その間の10分で合計1000km走れる性能が手に入れば、不満はないのではないか。
超高性能急速充電の開発経緯とは
こうした超高性能急速充電への対応は、すでにポルシェがタイカンで技術的開発を進めてきた。発進・加速性能という、スポーツカーとしてこれまで醍醐味の一つだった強烈な瞬発力は、EVになるとスポーツカーでなくても発揮できるし、体感することができる。
たとえば米国テスラのモデルSは、ポルシェと変わらぬ加速性能を備える。アクセルペダルを床一杯まで深く踏み込めば、たちまち時速100kmに到達する凄さだ。そこでポルシェは、そうした加速性能を、何度も繰り返せるのがEVスポーツカーたるゆえんだとして、サーキット走行でもバッテリーが加熱せず、スポーツカーならではの加減速を何度も繰り返せるように開発している。そのような運転をすれば、いくらバッテリー容量が大きくても電力消費は早まる。そこで、急速充電の超高性能化が求められるのだ。
アウディは、ポルシェと同じフォルクスワーゲングループ内の一社として充電技術を共有できる面があり、EVの車両技術でもアウディe-tron GTは、タイカンと共通の技術を基にしている。
タイカンは、急速充電性能で350kWへの対応ができる開発をしてきたが、当面は欧州でも270kW仕様での導入となったようだ。ちなみに日本市場へは、日本の充電規格であるCHAdeMOへの適合を視野に、150kW仕様としている。
充電規格について、欧州はCHAdeMOと併用するかたちでCCS(コンバインド方式)の充電整備を行っており、CCSに則した社会資本拡充の一環として、VWグループはIONITY(アイオニティ)を組織し、大容量での急速充電の普及に力を入れている。
したがって、VWグループに属する自動車メーカーおよび、アイオニティに名を連ねる自動車メーカーは、超急速充電の利用を視野に、上級やスポーティなEV開発をしているはずだ。
いっぽう、日本でのEVの急速充電は可能なのか?
EVは、テスラが象徴的であるように、車両と充電を一組で考え、開発する発想や手法を採らないと、なかなか高性能であったり高効率であったりするEVを商品化しにくい。充電は協調領域だと考え、従来のガソリンスタンドと同じ発想でいると、多種多様な車種に対応できる汎用の充電性能しか享受できなくなる。
量販車種であれば、その発想で、既存の充電基盤に充電時間や一充電走行距離を併せていくことが合理的かもしれない。だが、他社より優れたEV性能や利用の魅力を実現しようとするなら、充電の仕方を車両開発と同様に自ら創り上げていく発想がないと、壁を乗り越えられない可能性が出てくる。
同時にまた、充電の考え方は、地域によって異なり、交通社会の形態によっても左右される。
日本は、クルマの所有に際し車庫証明を添付することが求められるように、保管場所の確保が前提となる。だが欧州では、路上駐車が認められている。象徴的なのが、フランス・パリの市街地だ。路地にまで、路上駐車がぎっしり並び、昔から縦列駐車の出入りには、前後のクルマとバンパーをぶつけながら行われるくらいだ。実際、バンパーをぶつけたことで争いになるようなこともない。
いつ、誰が、通り道に路上駐車するかわからなければ、充電器は普通充電にも急速充電にも対処できなければならない。したがって欧州では、両方の充電口を備えるCCS方式が導入されたのだ。
対する日本は、先のように車庫証明を必要とし、貸し駐車場であっても自分用の保管場所があることを前提とするので、自宅では急速充電である必要はない。したがって、CHAdeMOは、普通充電と急速充電が別の充電口となっているのである。
また、大都市部を中心に日本は公共交通機関が発達、整備され、国土の形も弓なりをした縦長であるため、長距離移動用に新幹線の整備が行われた。ほぼ四角い国土のドイツと違い、新幹線を利用すれば自ら運転しなくても快適に、なおかつアウトバーンを時速200kmで走行する以上の速さで遠出できる。必ずしもクルマで長距離移動する必要はない。
もちろん、ドライブを趣味とするなら別だが、大多数の人は、たとえば東京~大阪の移動は新幹線を選ぶのではないか。
そうなると、EVの利用においても、急速充電の高性能化に対しては、欧州ほど超高性能化の必要があるかどうか、議論の分かれるところだ。
もちろん、近年のように車載バッテリーの容量が大きくなると、現行の急速充電性能では不足する事態が起こる。既存の50kW(キロ・ワット)以下の充電器を、90kWや150kWへ交換することは日本でも望まれる。だが、必ずしも欧州のように270kW級というような超高性能化だけがEVの未来を決めるわけではない。
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