今後、リフトアップしたクロスオーバー風になるといわれている、トヨタ「クラウン」。早ければ夏前、遅くても今年中には登場するようだ。
ステーションワゴンではなく、セダンのリフトアップときくと違和感があるが、まるでセダンのようにリアウィンドウを傾斜させた、「クーペSUV」はいくつかある。トヨタ「ハリアー」やルノー「アルカナ」もその一種だ。
クラウンクロスオーバー(仮)の実力を分析し、クラウンSUV戦略は成功するのか、予想してみよう。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、Mercedes-Benz、BMW、Audi
FFベースのAWDとクロスオーバー追加で再起をかける
現時点でクラウンクロスオーバー(仮)について分かっているのは、「大径タイヤとリフトアップで新しいボディタイプ、全車ハイブリッドで4WD化、セダンからセダンプラスへ進化」といったところまでだが、どうやらFFベースのAWDを採用した4ドアクーペ風へと切り替わるようだ。
このクラウンクロスオーバー(仮)は、「現行クラウンの新グレード」といった位置づけになる可能性が高いといわれている。本格的にクロスオーバーへ舵を切る前に、現行を使って市場の様子見をする、といった目的で登場するのであろう。
当初は、クーペ風セダンのボディ後端までルーフを伸ばしたステーションワゴンをリフトアップした、いわゆる「クロスカントリー」テイストのジャンルになると想像していたが、あくまで「セダン(もしくは4ドアクーペ)」とのこと。
「4ドアクーペ風」ということであれば、冒頭でも触れたように、トヨタのハリアーと近しいジャンルとなると思われ、また、世界に目を向ければ、欧州メーカーを中心に、セダンのようにリアウィンドウを強く傾斜させたSUVは何台かある。それらを参考にしながら、クラウンクロスオーバー(仮)は成功するのか、考察してみようと思う。
クーペSUVは人気のジャンル
セダンのようにリアウィンドウを強く傾斜させたSUVは、ハリアーのほかに、メルセデスベンツのGLCクーペやGLEクーペ、BMWのX4とX6、アウディのe-Tronスポーツバックなどが挙げられる。
まずは身内のハリアーから。サイドガラスの上下幅が狭く、キャビンがクーペのようにも見えるハリアー。現行型は2021年6月に登場したモデルだ。ボディサイズは、全長4740×全幅1855×全高1660mm、ホイールベースは、2690mm。2.0L直4ガソリンエンジンと、2.5L直4エンジンに電気モーターを組み合わせたハイブリッドがあり、ハイブリッドの4WD車はE-Four(電気式4WDシステム)だ。ご存じの通り、RAV4と兄弟車であり、価格は、2,990,000円~5,040,000円、月販目標台数は3,100台だ。
メルセデスベンツのGLCクーペ、GLEクーペは、リアウィンドウが強めに傾斜しており、ヘッドライトとテールライトを結んだラインから上側だけを見ればセダンのようにも見える。サイズは、GLCクーペが全長4740×全幅1930×全高1610mm 、GLEクーペが全長4955×全幅2020×全高1715mmだ。ちなみに、GLC 220d 4MATIC Coupeは税込763万円、GLE 400d 4MATIC Coupe Sportsは税込1241万円となる。
BMWのX4(税込792万円~)は、全長4760×全幅1920×全高1620mmでホイールベースが2865mm、X6(税込1097万円~)は全長4945×全幅2005×全高1695mmでホイールベースが2970mmと、両者とも立派なサイズをしている。全幅はハリアーが子供に見えるほどに大きいが、全高はほぼ同じという背低のクーペSUVだ。
アウディのe-Tronスポーツバック(税込1145万円~)は全長4900×全幅1935×全高1615mm、ホイールベースは2930mmのバッテリーEVだ。
このように、欧州ではCセグメント、Dセグメントに、クーペSUVがいくつかあり、ハリアー含め、どのモデルもクラウン同様の「プレミアム感」がある。特にハリアーは国内で絶大な支持を得ていることから、クラウンが目指すジャンルとしては「アリ」なジャンルといえる。
クラウンらしさを残しつつ、新しさを取り入れられるか!?
ただ、だからといってクラウンクロスオーバー(仮)が成功するかどうかは不透明。クラウンクロスオーバー(仮)が「クラウン」でなければヒットするであろうが、クラウンを冠する限り、クラウンの呪縛はつきまとう。今回紹介したようなクーペSUVのスタイルになるのであれば、「クラウン」というネーミングからは離れたほうがいいと筆者は考える。
長い歴史を持つセダンのなかでも、長い歴史を持つクラウンは、既存の購入者の平均年齢は60代にもなるという。もちろんクラウンのオーナーの中には、40代の若い世代もいるようだが、大半の方は、「オールドスタイルのセダンこそがクラウンに相応しい」と考えている方が多くいることは、トヨタ系販売店の担当者と話をしていると伝わってくる。新型クラウンが出るとなれば、実車を見ずともフルオプ車を購入してくれる顧客もまだいるそうだ。
既存のクーペSUVたちは、どれもド派手なスタイリングであり、全幅2000mmを超えるSUVを乗りこなす度胸のある若手が好むクルマだ(30代~50代の若くして資産を築いた富裕層など)。そのため、旧来のクラウンの姿を知るオーナーが選ぶことはまず考えにくい。
あくまで「クラウン」として登場するならば、あれほどド派手にならない範囲で、クラウンらしさを残しつつ、それでも新しさを取り入れる、絶妙なポイントをついたモデルとなるかがクラウンクロスオーバー(仮)の行く末を左右するポイントとなる。日本の名車「クラウン」の選択を目にできるまで、あともう少し。登場を楽しみにしている。
【画像ギャラリー】走行性能も使い勝手も抜群!! 日本で買えるクーペSUVたち(35枚)画像ギャラリー投稿 新型クラウンSUVに勝機はあるか 乗り越えるべきは…「クラウンの呪縛」 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。