レギュラーガソリン170円時代、もはやガソリン代が高すぎて動かしたくない、そろそろEVにするかと思っている人も少なくないと思う。
そんななか、経済産業省はEV、PHV、FCVの購入補助と充電インフラ整備補助、CEV補助金の申請受付を3月31日から開始したが、補助金が大幅に引き上げられたのが大きなポイントだ。
補助金はEVでは上限額が40万円から85万円に引き上げられ、軽EV、PHVは20万円から最大55万円に、FCVは115万円から最大145万円に引き上げられた。EV、PHV、FCVの購入補助は2021年11月26日以降に登録・届出した新車が対象となっている。※いずれも外部給電機能としてのV2X対応、1500W車載コンセントを装備した場合の条件付き。
ここまでEVの補助金が増えると、「そろそろEVに決めるか」という人も増えるのではないだろうか。
そこで、純ガソリン車とハイブリッドの1ヵ月、1年間のガソリン代と燃費、EVの電気代と電費を比べて維持費はどれくらい違うのか? 4月に購入したと想定し、補助金やエコカー減税なども計算し、年間維持費はどれくらい違うのか、モータージャーナリストの高根英幸氏が徹底解説する。
文/高根英幸
写真/トヨタ、日産、マツダ、ベストカーweb編集部、AdobeStock(トビラ:picture cells@AdobeStock)
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■EVの補助金が上限40万円から最大85万円に引き上げられた
中国の旺盛な需要にOPEC+(中東の産油国に加えてロシア、メキシコなどの産油国を含めた機構)が増産を渋ってジワジワと原油価格が上昇していたところに、ロシアによるウクライナ侵攻が供給不安を煽って、さらにドカンと跳ね上がった。
部品不足による減産で新車の納期が延びているのも問題だが、燃料価格の高騰がクルマ選びを一層真剣なモノにしてしまった感がある。
3月28日時点での資源エネルギー庁が発表したレギュラーガソリンの小売り価格の全国平均は、先週に比べ60銭安い、1リットルあたり174円だった。2週連続の値下がりだが2008年9月のリーマンショック時以来13年半振りの高値水準が続いている。補助金は1Lあたり18円60銭投入されたが、170円を下回っていない。3月31日からは上限の1Lあたり上限の25円が投入されるが先行きはまだまだ不透明だ。
そんななか、経済産業省は令和3年度補正予算375億円を元手に、グリーン成長戦略を確実に進めるべく、令和4年度3月31日から申請受付開始したCEV補助金の上限額を発表した。
EVでは40万円から一気に85万円(外部給電機能付きが対象。給電機能とは外部給電器・V2H充放電設備を経由、または車載コンセント、1500W/AC100Vから電力を取り出せる機能をいう)にアップ。
そのほか、軽EVとPHVが約20万円から最大55万円、FCVは115万円から最大145万円に引き上げられた。
車両の購入補助については、令和3年11月26日以降に新車新規登録(登録車)又は新車新規検査届出(軽自動車)された車両が対象となる。
給電機能付きのリーフの補助金は53万1000~85万円、アリアB6とB6リミテッドは85万円。ホンダeは55万5000~71万1000円。レクサスUX300eは85万円となっている。
これに加え、全国の地方自治体のEV補助金が加わる。東京都の場合、個人では最大45万円、環境省補助併用の場合は最大65万円。これは令和4年3月31日に締め切られたので、4月1日以降はどうなるのかはまだ発表されていない。今回は地方自治体の補助金はまちまちのため除外した。
そこで、コンパクトカークラスの様々なクルマを選んで、EVと純ガソリン車、HV、PHVと比較し、3年間のトータルコストを比較してみることにした。
まず選んだのは人気車種であるトヨタのヤリスクロス。ガソリン車とハイブリッドで中間グレードのGを選択。日産からはノートe-PowerとSUVのキックス、EVのリーフをチョイス。そしてクリーンディーゼルを搭載したマツダ2もリストに加えた。
購入費用には車両価格と諸費用、それにCEV補助金が影響してくるが、それぞれを別項目にすることで、それぞれの費用感を明確化している。
自動車保険はユーザーにより保険料が大きく異なるため、項目から除外している。またオプション類は基本的には選んでおらず、ノートe-PowerだけはベースグレードであるSでも安全装備はある程度備わっているので、ディスプレイオーディオとバックモニターだけをオプションから選択した。
そのためフロアマットさえもオプションとして選んでいないが、実際にはフロアマットくらいは値引きとしてサービスしてもらえるから、フロアマットは装備されているものと考えた。
エコカー減税は購入時の自動車重量税が減税されているので、購入時の諸費用に含まれることになる。グリーン化特例は購入後翌年の自動車税が減額されるのだが、ハイブリッド車は対象外となったので、今回比較している車種のなかでは減税が受けられるのはEVのリーフだけだ。
■車両本体価格&諸費用
・リーフe+X:441万7600円、CEV補助金85万円引くと356万7600円。諸費用:11万7524円
・ヤリスクロスG:202万円、諸費用:20万330円
・ヤリスクロスHV G:239万4000円、諸費用:11万3930円
・ノートe-POWER S:214万5500円、諸費用12万1644円
・キックスX:275万9900円、諸費用13万4004円
・マツダ2 XDプロアクティブ(ディーゼル)2WD:199万1000円、諸費用14万1580円
■3年間の自動車税
・リーフe+X:3万7000円
・ヤリスクロスG:6万9000円
・ヤリスクロスHV G:6万9000円
・ノートe-POWER S:6万9000円
・キックスX:6万9000円
・マツダ2 XDプロアクティブ(ディーゼル):6万9000円
■燃料代は燃費と燃料種類、充電プランによって大きな違いが
■年間6000km走行した場合の燃料代と燃費
・リーフe+X:5万3000円/7km/kWh
・ヤリスクロスG:7万2800円/14.0km/L
・ヤリスクロスHV G:5万1000円/20km/L
・ノートe-POWER S:5万8200円/17.5km/L
・キックスX:5万5100円/18.5km/L
・マツダ2 XDプロアクティブ(ディーゼル):4万6100円/19.5km/L
ガソリンはレギュラーガソリン1L、170円として、各車種の燃費はユーザー参加の燃費サイト「e燃費」の平均燃費を参考にさせてもらった。不思議なことにノートe-Powerよりも同じパワーユニットを搭載したキックスの方が実燃費のデータが良いのである。これはユーザーの地域性などが平均燃費に反映されたものかもしれない。
つまりノートはコンパクトなボディから都市部のユーザーの比率が高く、キックスは郊外のユーザーの比率が高め、ということが想像できる。実際に購入される方は自分の使い方から、この平均燃費よりも低くなるか高くなるか、想像して判断してほしい。
なお、年間の走行距離は少し少なめの6000kmに設定。これは燃料価格が高騰中のため、節約して外出を控える傾向にあることを想定したものだ。
そして難しいのはリーフの電費だ。平均値から必要な電力量は分かるが、急速充電と普通充電ではコストがまるで違う。集合住宅で自宅に充電設備がないユーザーは急速充電一択になるが、それを選ぶのはレアケース。EVの基本は普通充電での使用であり、急速充電は経路充電(目的地までの途中での充電)のための方法と考えるべきなのだ。
テスラのようにバッテリーの冷却機能がしっかりしているEVであれば、急速充電をメインとしてもバッテリーの劣化は低く抑えられるが、リーフには冷却機能が備わっていないので、急速充電とりわけ30分の急速充電をその場で2回繰り返す「おかわり充電」などを行なうと、バッテリーの寿命を縮めてしまう。
そこで今回は個人ユーザーが週末に時々遠出するとして、月に2回急速充電を利用すると仮定すると日産のZESP3(急速充電器の利用制度)に加入してプレミアム10というコースを利用するケースを想定した。
電費を7km/kWhとすると、年間6000km走行するのに必要な電力はおよそ857kWh。普通充電の単価を26円/kWhとして、すべてを普通充電で賄えられれば2万2000円で済むが、片道150km以上のドライブを楽しむとなれば急速充電を頼らない訳にはいかない。
ZESP3の3年定期契約を結ぶと10分×10回分の急速充電が月額2750円で利用できる。これを1年にすると3万3000円だ。
90kW出力の充電器を利用して70kWで急速充電できるディーラーが今後増えると仮定して、30分の急速充電で25kW充電できると考えると、およそ月に83kWhは急速充電でカバーできるとなれば、普通充電は774kWhで済むことになるので、電気料金は2万円で済む。ということは、年間のトータルでの充電コストは5万3000円ということになる。
クリーンディーゼルのマツダ2は、燃料代の安さと燃費の良さはやはり魅力だ。1年間の燃料コストは唯一の4万円台半ばとなっている。それでも現時点での軽油の平均価格は150円/Lとなっており、2年前と比べると3割近くは上昇している。
■エンジン車にはエンジンオイルの交換が必要
■メンテナンス費用(主にオイル交換)
・リーフe+X:なし
・ヤリスクロスG:2万円
・ヤリスクロスHV G:2万円
・ノートe-POWER S:2万2000円
・キックスX:2万2000円
・マツダ2 XDプロアクティブ(ディーゼル):3万4000円
メンテナンス費用はエンジン車の場合、新車から3年間はエンジンオイル交換だけは必要であり、12ヶ月点検は自分で行なうと想定して、オイル交換代を算出。新車から最初の1000kmでオイルフィルターとエンジンオイルを交換し、その後は1年に1回のオイル交換で2回に1回フィルター交換をするとすれば、3年間で4回のオイル交換を行なうと予想。
そのうち2回はフィルター交換を行なうとして計算した。3年経過の車検時にもオイル交換をすることになるが、売却する可能性も考え、今回はその分は含めていない。
トヨタディーラーはエンジンオイルの交換料金を明示しているところが多く、それらを参考にすると3年間のオイル交換コストは2万円。カー用品店やガソリンスタンドで交換しても、それほど安くはならないと思われる。むしろ実際にはディーラーで12ヶ月点検と一緒に交換してもらった方が安心ではある。
日産車の場合、ディーラーがオイル交換の費用を明示している例が少なく、ユーザーの証言などからオイル交換の費用を見つけ、それを参考に3年分の費用を推測した。
クリーンディーゼルのマツダ2は、燃料代は安いもののエンジンオイルは4Lを必要とするため、メンテナンス費用は少々嵩む。オイルフィルターを含めるとオイル交換代は9000円を超えるというユーザーの報告もあるから、ディーラーでオイル交換を行なうのであれば、メンテdeパックと呼ばれるメンテナンスパックを利用した方がお得だ。
これは6カ月毎の点検とオイル交換をセットにしたもので、30ヶ月コースなら7回分のオイル交換が入って価格は4万~5万円(ディーラーにより異なる)。平日限定のプランで3.7万円を掲げているところもあるので、購入前に地元のマツダディーラーのメンテナンスパックがどういう内容なのか把握した上で検討した方がいいだろう。
■3年間の燃費&メンテナンスコスト+自動車税
・リーフe+X:19万6000円
・ヤリスクロスG:30万7400円
・ヤリスクロスHV G:24万2000円
・ノートe-POWER S:26万5600円
・キックスX:25万6300円
・マツダ2 XDプロアクティブ(ディーゼル):24万1300円
■3年後の下取り価格は現在より低下していると予測
■3年後の下取り予想価格
・リーフe+X:220万円
・ヤリスクロスG:150万円
・ヤリスクロスHV G:195万円
・ノートe-POWER S:150万円
・キックスX:160万円
・マツダ2 XDプロアクティブ(ディーゼル):120万円
3年後に売却してクルマを買い替えることを考え、下取り価格を予測。これは現在3年落ちの中古車が販売されている車種は、現在の中古車価格から下取り価格を判断し、2年以内に発売されたクルマも現在の中古車から3年落ちの下取り価格を推測した。
現在は新車不足の影響から中古車価格も高騰している。3年後の下取り価格を、現在のレベルが維持されていると期待するのはちょっと楽観的過ぎる。3年後には従来の相場感に戻っている可能性もあることから、人気車種でほとんど値落ちが見られないクルマについても、相応の値落ちがあるものと予測している。
それでもEVに関しては、現在もリセール性はエンジン車ほど高くはないので、3年後は現在の中古車価格とも大きな変動がないと思われる。リーフでもバッテリー容量の大きいe+を選択したのは、車両価格が高くてもその分高いリセールが予想できるからだ。
5年10年と乗り続けるとしても、リセールバリューは気になるし、どの時点で買い替えるとしてもリセール性の高さは比例するから参考になるハズだ。
■総費用から考える、目的別のチョイス
■3年間のトータルコスト
・リーフe+X:211万1124円
・ヤリスクロスG: 102万7730円
・ヤリスクロスHV G: 79万9930円
・ノートe-POWER S:103万2744円
・キックスX:155万204円
・マツダ2 XDプロアクティブ(ディーゼル): 117万3880円
基本的には乗りたいクルマ、欲しいクルマを選んで運転することが満足感につながる。SUVが人気なのも目新しさや力強いフォルムといった印象がもたらす、新しいクルマを手に入れた満足感の高さが人気の理由だ。
それでも稼げる賃金に限りがある以上は、損をしたくない、次に買い替えるクルマの下取りを有利にしたい、という気持ちになるのも当然のことだろう。
購入費用と3年間の燃料(EVは電気)代、税金やメンテナンス費用の合計額から、3年後の下取り価格を差し引いたものが3年間のトータルコストだ。
結果はハイブリッド、それもヤリスクロスハイブリッドの圧勝だった。それは燃費の良さと下取り価格の高さが、トータルでのコストを大きく引き下げたからだ。
このなかでは155万円とキックスのコストが高めに感じるが、これは現在の中古車価格から算出した下取り価格が低めだったことが影響している。
同じパワーユニットのノートが103.2万円であることを考えると、ちょっと逆にヤリスクロスは人気が高いため、ガソリン車でも102.7万円とキックスよりコストが大きく下がっている。
ヤリスハイブリッドの79.9万円というのは驚異的な安さだが、これも高い下取り価格が影響しているので、実際の3年後はやや人気が落ち着いていることも想像できる。また5年落ち、7年落ちになると差は縮まることになる。それでも確実に出費を抑えることができるのはトヨタのハイブリッド車の強みだろう。
リーフは168.1万円とかなり高くなっているが、これは冒頭で触れた通り、自治体の補助金を含んでいないことも影響している。補助金次第では100万円前後になって他車と同程度のコストも期待できるが、補助金だけに予算が尽きてしまえば支給されないので、購入のタイミングにも気を付けたい。
また急速充電のコストが年間3万円ほどもかかると、普通充電の安さが帳消しになってしまうことが判明した。政府は本気でEVを普及させようというのであれば、補助金などの優遇措置の見直しと充電設備の拡充を急ぐべきではないだろうか。
クリーンディーゼル搭載のマツダ2はこの試算では117.3万円だが、1年間の走行距離が多いほど相対的にコストは下がり、燃料価格の安さと燃費の良さが光ってくる。
例えば地方のユーザーでこの試算の3倍、1年で1.8万km程度走行するのであれば、燃料コストのアドバンテージが広がり、ノートやヤリスクロスのガソリン車とほぼ同等のトータルコストとなり、それでいてディーゼルのトルクに満ちた力強く反応の良い走りを味わえることだろう。
また渋滞やゴーストップが多い都市部での使い方が多ければ、ハイブリッド車やEVにアドバンテージが出てくる。ただしEVは自宅に充電設備があるかないかで、使用環境の利便性やコストが大きく変わってくる。
EVの本格的な普及までまだ時間がかかりそうな状況であるから、こうした試算と、自分が乗りたいクルマを比較して、クルマ選びを楽しんでみてはいかがだろうか。
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