自動車史上何度も挑戦されつつも、ビジネス的に成功するのが非常に難しいと言われてきた「小さな高級車」。だが今、その小さな高級車として登場したノートオーラが、好調に売れているという。
オーラ好調の秘密は一体何か? 鈴木直也氏に解説してもらった! 秘訣は割高感を感じない価格設定にあり!?
文/鈴木直也
写真/日産、ベストカーWEB編集部
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■標準のノートとノートオーラの実質価格差は意外に小さい
概念としては昔からあるが、商品としてなかなか成功しないのが「小さな高級車」だ。
このコンセプトが難しいのは、コストとの折り合いをどうつけるか。あまり高価だと「だったら素直に上級モデルを買ったほうがいいや」になるし、逆にコストを気にしすぎると「高級感がいまひとつ」になりがち。このあたりのさじ加減が「小さな高級車」にとって永遠の課題なのである。
ノートの高級版としてオーラが登場した時、ボクが注目したのはまさにソコだ。
価格が202万~288 万円のノートに対して、ノートオーラは261万~295 万円。エントリー価格を見ると50万円以上高いが、これはノートでオプションだった装備が標準化されているためで、実質的な価格差は意外に小さい。
オンラインで見積もりをしてみるとよくわかるのだが、例えばノートでは37万円のセットオプションとなるインテリジェントアラウンドビューモニターそのほかは、オーラでは標準装備。「ふつう、コレは選ぶだろう」というオプションを選択していくと、価格差20万以下となるケースが多い。
「この価格差で、本当に高級バージョンが作れるのか?」。まずそれが、ボクがオーラに感じた疑問だった。
■高級にしすぎない絶妙な高級感
しかし、結論を先に言うと、これはボクの思考が「古いタイプの小さな高級車」にとらわれていた結果生じた誤解だったようだ。
直近の販売実績をみると、オーラの人気は本物で、地域によってはノートを上回る受注状況だという。ユーザーは明らかにオーラというクルマを支持している。
昔の「小さな高級車」は、元祖と言われるバンデン・プラ・プリンセス(60年代に英国で作られたADO16(初代ミニの兄貴分)の高級バリエーション)に代表されるように、本物志向が強かった。
そりゃ、オーラだってウォールナットのインパネやコノリーレザーのシートが備わっていたら嬉しいけど、それで500万円になったら誰も買わない。冒頭に「小さな高級車はなかなかビジネスとして成功しない」と述べたが、その主な原因は価格の割高感にあったわけで、そこを上手にクリアしないとまずは商品企画そのものが成り立たないのだ。
クルマは不動産に次ぐ高額商品だから、購入にあたっては「買った後で後悔したくない」と考える人が多い。それゆえ、「念のため上のモデルを選んでおこう」というバイアスが働く。ところが、価格差が大きくなると、途端に「予算オーバーでムリ」と反発される。
オーラの好調の理由は、そのへんのバランスが絶妙だったから。それはマーケティングチームのファインプレーだったとボクは考えている。
ノートのエントリーが200万円、オーラの最上級モデルが300万円。単一モデルとしてこの価格レンジを埋めるという考えもアリだが、日産のマーケティングチームはここをノートとオーラの2車種に別け、そこに絶妙なギャップを設定するという作戦を選んだ。
■「渋好みの変化点」を積み重ねて高級さを演出
前述のとおり、ノートとオーラの実質的な価格差はそれほど大きくないから、ユーザーをオーラに誘導するうえでハードルは高くない。あとは、ノートとオーラがきちんと差別化されていて、購入した人の満足度をいかに高めるかがポイントだ。
そこでいちばん重要なのは、オーラが「単なるノートの上級モデル」と認識されないことだから、そこには並々ならぬ工夫がある。
例えば、ライトを薄型化したフロントマスクや、後部フェンダーを膨らませて全幅を40mm拡幅したサイドラインなど。このへんは2台並べて見ないとどっちがどっちだかわからないくらい微妙なんだけれど、それでもよく見ると確かにオーラのほうがクォリティ感がある。
インテリアも同様で、ファブリック仕上げのインパネ上面や木目調パネルの加飾が識別点だが、これまた「知らないとわからない」微妙な差別化がほどこされている。
一見するとまったく同じに見えるメーターディスプレイは、オーラには12.3インチのワイドなカラー液晶パネルが採用されていて、表示される情報のバリエーションを拡大。そのほか、フロントドアガラスに遮音ガラスを採用するなど、けっこう細かいところで細かい装備がアップグレードされているのだ。
■最小限の変更で余裕ある走りを
さらに、ダメ押しとなるのがパワースペックの違いだ。モーター出力はノートが85kW/280Nmに対して、オーラは100kW/300Nm。両車とも、エンジン(HE12DE)の出力は60kW/103Nmで共通だから、これはパワーコントローラを制御するソフトウェアの差に過ぎないのだが、こういう走行に関わる部分もちゃんと作り分けられているのは手が込んでいる。
オーラの商品企画のキモは、「パッと見ではあまり違いがなく見えるがが、実は細かいところでけっこう差がある」という渋好みなキャラクター設定。そこが、実に巧みに作り込まれているのが魅力になっているように思う。
正直に言うと、ボクは最初にオーラの存在を知った時には、うかつにも「ノートとの差が少ないわりに価格が高く、あんまり売れないのでは?」と早合点してしまった。
その後、試乗会で走りを体感した際には、「お、乗り心地や静粛性なども、ノートよりだいぶ上質だね」と好感度アップ。さらに、日産のマーケティングチームの人と対話することで、このクルマが綿密なマーケティング戦略に基づいて作られていることがわかってくるなど、理解が進むほど尻上がりに評価が高まっていった。
■ノートオーラの原点は先代ノートNISMOにあり!?
そこで思い出したのは、先代のノートe-POWERで、NISMO仕様がクルマ好きだけではなく、女性ユーザーにもきわめて評判がよかったというエピソード。ノートe-POWER NISMOは開発チーム主導で作られたのかもしれないが、走りの機能以外でも上質感が意外なほど高く評価され、それが女性ユーザーの取り込みにつながったらしい。
その手法をさらに拡大して、独立した派生車種を新たに作ったのがオーラなんじゃないか? これがボクの見立てなんですが、さて皆さんはどう思いますか?
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投稿 日本車の悲願「小さな高級車」はこれが最適解だったのか?「本家ノートを食ったノートオーラ爆売れの秘密」 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。