クルマにはさまざまなバリエーションがある。同じ車種であっても、グレードによって装備が違っていたり、スタイルも変化したり。さらに話を複雑にするのが、ひとつのクルマをベースにした派生モデルも存在することだ。なぜクルマの派生モデルは次から次へと増えていくのか? 今回は派生モデルの多いクルマを紹介するとともに、派生する理由を探っていく。
文/長谷川 敦、写真/トヨタ、FavCars.com、BMW、マツダ
【画像ギャラリー】派生モデルの多さと出来の良さは比例する!?(19枚)画像ギャラリー派生モデルの定義ってなんだ?
本題に入る前に、派生モデルとはどういうものかを考えてみたい。まずは1台のクルマが誕生する。それはセダンでもいいし、コンパクトハッチやスポーツカーでもいい。そのクルマには、購入予算や用途に応じてエンジンや装備の異なる各種グレードが用意される。しかし、この記事ではこうした各グレードを派生モデルとは呼ばないことにする。
では何が派生モデルなのかというと、それはベース車とは違うメーカーで販売されたものや、異なるスタイルと車名を持つものとしたい。この定義に異論のある人もいるだろうが、ここは少々あいまいになってしまうことを許容してほしい。それほど派生モデルの定義は難しいということだ。
派生モデルの多さはナンバーワン? カローラの兄弟はこんなにいる!
トヨタが販売する“大衆車の王”カローラは、販売台数だけでなく、派生モデルの多さでも知られているが、その理由はいくつか考えられる。まずは構造やデザインがベーシックで、小変更によるバリエーションを増やしやすいこと。そして「カローラ」という名称の知名度が高いことだ。そのため、プラットフォームやエンジンが本家カローラと共通していないにも関わらず、カローラの名称を与えられたモデルも存在する。
50年を超えるカローラの歴史において数え切れないほどの派生モデルが生み出されてきた。そのすべてを紹介するとこの記事が長大なものになってしまうため、まずは現行の12代目に絞って派生モデルを見ていこう。
現行モデルの登場は2019年。カローラシリーズ初の3ナンバーモデルとして設計された12代目には、セダンのカローラを中心に、カローラツーリング、カローラスポーツ、カローラクロス、そして12代目とは系統の異なるカローラアクシオとカローラフィールダーが販売されている。また、教習車としてのカローラも入れると7車種ある。
過去にさかのぼるとカローラの派生モデルはさらに増える。セダンを基本にバンやワゴン、3列シートのスパシオなどもあった。スプリンターも元はと言えばカローラの派生モデルだったし、そこから生まれたトレノや、カローラレビン、そして直接の血縁関係はないにもかかわらず、イメージ戦略のためにカローラの名称を持つカローラIIなど、枚挙にいとまがない。
こうしてみると、現在の7車種が少ないとも感じられる。カローラの歴史はまだまだ続きそうなので、今後も新たな派生モデル(EVか?)が誕生することも期待できそうだ。
初代モデルから派生車多数! “ミニ”のバリエーション
ミニクーパーの愛称でもおなじみのミニ。1959年に初代モデルが登場し、当時としては珍しいFF方式の採用とコンパクトかつ合理的なデザイン、そしてなによりその愛くるしい姿でたちまち人気のモデルとなった。
現在はクラシックミニとも呼ばれる初代モデルは2ドアのコンパクトカーで登場。やがてピックアップトラックタイプも開発され、商用のバンも作られた。さらにはステーションワゴンタイプのカントリーマンやトラベラーといったモデルも販売されている。軍用車のモーク(1964年)もミニのコンポーネンツを利用したものだ。
公式車両だけでなく、ミニをベースにしたキットカーも多数製作された。そのバリエーションは数えきれないほどで、現行モデル(2001年)にバトンタッチするまで、100種類を超える派生モデルが誕生したとも言われている。
2001年には新たにミニの販売権を取得したBMWから新世代のモデルがリリースされた。オリジナルよりも大型化したため“ミニ”の印象からやや遠ざかったものの、全体的なフォルムは初代を継承する新世代ミニも2013年には3代目が登場。この3代目も3ドア、5ドア、クラブマン、カブリオレ、クロスオーバー(カントリーマン)など、多数の派生モデルが存在している。
多チャンネル化が生んだ多数の派生モデル。「クロノスの悲劇」とは?
最後は派生モデルの多さと言うより、その数奇な運命で当時を知る人に印象を残しているクルマを紹介したい。
1989年、マツダは販売店を多チャンネル化する戦略を開始した。この戦略によって「マツダ」「アンフィニ」「ユーノス」「オートザム」「オートラマ」の5チャンネル(ディーラー)が展開され、自社の販売力強化を狙った。その多チャンネル化の象徴となったのが、マツダ店からクロノスの名称で発売された4ドアセダンだ。
クロノスは、それまでのカペラに代わるモデルとして開発されたミドルクラスセダンで、新たなプラットフォームを採用して1991年に登場した。カペラの名称を引き継がなかったのは、このクロノスから3ナンバーサイズになったため。クロノス自体は言ってみればごく普通のセダンであり、競合車に対して特に見劣りすることもなかったのだが、後述する派生車の登場が混乱を招く結果になった。
マツダは5チャンネル各店で販売する車種を揃えるため、クロノスの兄弟車を製造して各チャンネルに割り振ることを決定した。マツダ店ではクロノスと2ドアクーペのMX-6を、アンフィニ店はMS-6とMS-8を販売。さらにユーノス店向けにユーノス500を、オートザム店にはクレフとフォードブランドのテルスター、オートラマ店にはフォード テルスターTX5とフォード プローブを用意した。
先にあげたモデルはすべてクロノスをベースにした派生モデルなのだが、同じようなクルマが異なる店舗で販売されることが混乱を招き、お互いが足を引っ張り合う状態になってしまった。これでは販売台数が伸びるわけもなく、クロノス兄弟の売り上げは悲惨な結果に終わる。結局クロノスの知名度を上げることもかなわず、クロノスの販売不振はマツダの経営危機を招く一因にもなった。
これがいわゆるクロノスの悲劇だが、クロノス自体は決して出来の悪いクルマではなく、販売戦略ミスの犠牲者とも言える。つまり「クロノスの悲劇」よりも「悲劇のクロノス」と呼ぶほうがふさわしいとも言える。
自動車メーカーのグループ化が進む現在、プラットフォームを共有する派生モデルが増えることも予想される。しかし、それはひとつの優れたモデルをベースに派生していくのではなく、初めからバリエーション展開が計画されたものである。そういう意味では、クルマ好きにとって、新規の派生モデルを追うより、過去の派生モデルをチェックするほうが楽しいかもしれない。
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