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地球上のエネルギーの多くが熱を生み出すために使われているが、実際はそれだけでなく、莫大な量のエネルギーが無駄に使われ、またCO2などの副産物が大気中に放出されている。こういった状況を変えるため、家庭やビル内で排出量を回収してクリーンな水素を生成するという新たなシステムを開発したのがModern Electron(モダンエレクトロン)だ。今回同社はシリーズBで3000万ドル(約34億7000万円)を調達しており、この資金を使ってその名を世に広める計画である。

住宅やマンション、オフィスなどの暖房には天然ガスを使うのが一般的だ。ガスを燃やすと、熱、二酸化炭素、水が発生するというとてもシンプルなプロセスで、熱はそのまま使用され、その他のものは捨てられていくという仕組みである。

しかし、Modern Electronの共同創業者兼CEOであるTony Pan(トニー・パン)によると、これはとても便利な方法ではあるものの、理想的ではない(確かに石油や石炭に比べればはるかにましなのだが)。

「熱を得るためだけに燃料を燃やすというのは、物理学的に見ても非常に無駄が多いシステムです。天然ガスや石炭、バイオ燃料を発電所で燃やすとしたら、まず電気を作るはずです。電気は熱の約4倍の価値があるからです。しかしなぜそうしないかというと、発電所の技術を商業施設や住宅のレベルまで縮小することができないからです。この損失は100年前から知られていました。熱と電気を生み出すことができれば、それは世紀の発明と言えるでしょう」。

2つの新しい技術を組み合わせることで、パン氏はその世紀の発明を実現したいと考えている。

1つ目の技術は熱電変換器と呼ばれるもので、シアトル地区を拠点とするModern Electronが初めに取り組んだものである。ソーダ缶ほどの大きさで、火炉で発生した熱を電気に変える、コンパクトかつ効率的な変換器だという。

もう1つは、デビューを目前に現在もまだ開発中の「Modern Electron Reserve(モダンエレクトロンリザーブ)」と呼ばれるもので、大部分がCH4(メタン)である天然ガスを、燃やすのではなく固体の炭素(黒鉛)と水素ガスに還元するというものだ。ガスが炉に送られて燃やされると熱とエネルギーに変換され、その後黒鉛は回収されて廃棄または再利用されるという仕組みである。

画像クレジット:Modern Electron

私もそうだったのだが、ここに複数の変換やプロセスを導入すると、熱力学的にシステム全体の効率に重大な影響を及ぼすのではないかと疑う読者もいるかもしれない。

「もちろんコストがかからないという訳ではありません」とパン氏。「CO2を大気中に放出しないために、その発熱反応(ガスを燃やすこと)を起こさせません。しかし、それを熱と電力に使えば、電力は熱よりも価値が高いため経済的には互角になります。つまり、余分なコストを補助することができるのです」。

実際、ユーザーにとってガスの使用量が増えることはない。通常なら他の形で家から出ていたエネルギーがシステムに残り、電力需要を簡単にカバーできるのである。

この反応で生成される炭素については、ちょっとした発想の転換が必要だ。現在の暖房システムは魔法のようなもので、スイッチを入れれば家が暖まり、請求書が届く。ところがModern Electronの技術を搭載したシステムを使っていると、毎日1〜2kgの黒鉛(純粋な炭素の粉)が出てくることになる(約1リットル、ちりとり1杯分)。

黒鉛の山。そう、あなたの炉からこれが毎日放出されるのである(画像クレジット:Modern Electron)

こんなものを捨てなきゃいけないのは気持ち悪い、とお思いだろうか。しかし実際、すでに我々は毎日これを大気中に放出しているのである。パン氏はこれを「空の巨大なゴミ捨て場」と呼ぶが、我々は最初からずっと、この炭素を空気中に捨てていたのである。同社の開発により、自分の二酸化炭素排出量をより簡単に見ることができるようになったというだけだ(ただしこぼさないように注意が必要)。

この純粋な炭素の粉は鉛筆の削りカスのようなもので、いわゆる毒性はない。固形物のため、たとえどこかのゴミ捨て場に置かれていたとしても、数百年、数千年の間炭素を有効に封じ込めることが可能だ。さらに、オフィスや病院のように多くの熱を使う施設では、十分な量の炭素固形物が生産されるため、回収に便利な場所に置いてそれを利用できる産業に売ることもできるようになるだろう。

Modern Electronは暖房と電気システム全体を置き換えようとしているわけではない。例えば熱をほとんど必要としない夏場の民家では、それに応じて発電量も少なくなるとパン氏は指摘する(送電網の柔軟性を確保するために電気システムを多少変更する必要があるが、全面的な変更ではないという)。

画像クレジット:Modern Electron

使用する熱の脱炭素化というのが同社の目的であり、一から構築するのではなく既存のHVAC(冷暖房空調設備)業者と統合したいと同社は考えている。熱電変換器は容積を増やすことなくすぐに取り付けられ、ガスから水素への変換器も他の小型機器のサイズ感と何ら変わらない。家庭だけでなく、ガスを大量に消費するほどの規模でありながらも大規模な産業インフラやBloom(ブルーム)のような燃料電池技術を利用するほどではない建物にも脱炭素化の大きなチャンスがあるとパン氏は話している。例えば熱需要の高い中規模の産業や、蒸気生産業もそれに該当するだろう。

EUでは新たにできる炉やボイラーに対する水素対応が義務付けられることとなったため、タイミングは良い(古い炉も比較的簡単に変換できる)。しかし、天然ガスからの切り替えに必要な規模の水素経済が世界的に実現する兆しは未だない。その場で変換作業ができ、損失はほとんどなくメリットも大きいため、この技術が無数の建物に熱を送るための新たなデフォルトになる日がいつか来るかもしれない。スタートアップとしては出だしも好調で、だからこそ同社は継続的な投資を得ることができたのだろう。

3000万ドルのBラウンドでは、Google X(グーグルエックス)の元責任者であるTom Chi(トム・チー)氏が共同設立したファンドのAt One Ventures(アットワン・ベンチャーズ)をはじめ、Extantia(エクスタンティア)、Starlight Ventures(スターライト・ベンチャーズ)、Valo Ventures(ヴァロ・ベンチャーズ)、Irongrey(アイロングレイ)、Wieland Group(ウィーランド・グループ)などが新たに参加している。また、以前からの投資家であるBill Gates(ビル・ゲイツ)氏(財団ではなく個人)とMetaPlanet(メタプラネット)も投資を継続・拡大している。

今回の資金は製品開発の継続の他、大手HVAC企業とのパイロットテストに使われる予定で、来年には運用が開始されているはずだとパン氏は話している。また、特にシアトル地域では人材を募集していると同氏は付け加えている。

もしModern Electronの技術が主流になり、石油や石炭からの脱却が進めば、天然ガスがよりクリーンで実行可能な(そしてすでに世界的に大きな存在感を示している)太陽光や風力などの再生可能エネルギーの補完物になる日が来るのかもしれない。

画像クレジット:Modern Electron

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)