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コロナ禍と半導体不足に揺れる激動のアジア、ASEAN最新自動車事情

 新型コロナウイルスによる影響は世界中で発生し、日本も大きな影響を受けている。自動車産業ではロックダウンによる工場停止やそれに関連した半導体不足の影響から、車種によっては納期遅れが目立っている。

 そして自動車のサプライチェーンは現在、国を跨いで世界中で繋がっている。日本に程近いASEANもその影響は大きく、混乱が起きているのだった。

 ということで、2019〜2022年のASEANについて、新型コロナウイルスに影響を受ける自動車産業の状況を解説する!

文/川崎大輔
写真/川崎大輔、Adobe Stock

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■実は、サプライチェーン混乱の震源地はマレーシアとベトナムだった!?

 3カ国(タイ、インドネシア、マレーシア)の3年間の生産台数は、387万台(2019年)、260万台(2020年/2019年対比マイナス30%)、329万台(2021/2019年対比マイナス15%)と推移している。

 月間の推移で見ると、2020年3月以降、コロナショックが原因となり大きく落ち込んだ。その後の生産台数は、回復基調を維持し2021年に入った。

 しかし、感染力の強い変異種デルタ株の出現によって2021年春以降、状況は激変し新しい局面を迎えた。これまで感染を封じ込めていたマレーシア、ベトナム、タイで2021年4月以降、感染者数が急増し、マレーシアでは6月にロックダウン(都市封鎖)を行った。

マレーシアでは感染者数抑制のため、2021年6月にロックダウン(都市封鎖)を行った(Budiwae@AdobeStock)

 マレーシアやベトナムなどでは、感染拡大の対応として、アセアン他国に比べると、製造業に対しても厳しい規制措置をとった。

 生産台数は2021年7月まで右肩下がりに減少を続け、7月を底に再び緩やかな回復基調に向かった。同年11、12月の年末には、対2019年同月比でコロナ前の生産台数水準まで回復。

 一方、2022年の生産台数に関して楽観的な見方はできない。

 いまだコロナ禍に加え、半導体などの部品の世界的な供給不足が重しとなっていることは間違いない。大幅な半導体の供給不足により、半導体の不足感が解消されるのは2022年の秋以降だとの見方が出ている。

 さらに、コロナの感染拡大を受けたアセアン各国での工場の操業規制などの影響で、自動車産業のサプライチェーン寸断が現実化し、日系自動車メーカー各社は100万台レベルの減産となった。

 サプライチェーン=供給網の課題はまだ残っている。何が起きているのだろうか。

■公衆衛生と経済活動のはざまで起きること

ASEANにおいて2020年3月中旬以降、厳重なコロナ対策により官民問わず大規模な移動制限や職場閉鎖が課された。本図でも、4月以降に大きな自動車生産台数減が起きたことがわかる

 コロナ禍においてマレーシアとベトナムは、そのほかのアセアン各国と比較しても、自動車産業でのサプライチェーンへの影響が大きかった。

 両国ともコロナ禍の対応として、厳格なコロナ対策が実施され、工場の操業規制が実施された。

 デルタ株の蔓延を受けて、マレーシアでは2021年4月以降、新規感染者が急増し、またベトナムでも2021年7月に感染急拡大が発生した。

 それによって自動車製造に使われる車載半導体とワイヤーハーネスの供給が不足し、サプライチェーンに大きな影響を及ぼす結果となった。

 マレーシアにはSTMicroelectronicsやInfineonなど、半導体の後工程メーカーが集中し、世界の半導体生産の1割強を占めると言われている。

 マレーシアでの工業稼働停止は半導体の供給不足を通じて自動車産業に大きな影響を与えており、2020年秋以降から特に目立って半導体不足に拍車をかけた。

■コロナ禍はまだ終わりが見えない

 しかし、マレーシアの状況が改善されたとしても充分な供給力を回復するまでには少なくとも1年以上はかかる可能性がある。ベトナムはワイヤーハーネス(自動車用組電線)などの労働集約的な自動車部品の集積地となっている。

 製造業の拠点を中国から分散し、チャイナ・プラスワンが進められた結果、ベトナムは生産移転先の有力国となっていた。

チャイナ・プラスワンとは、近年の米中摩擦などリスクに対応するため、中国国外にサプライヤーネットワークを追加して中国依存度を下げる動きのことだ(xtock@AdobeStock)

 電線を束ねる工程で人手を必要するため、活動規制などの影響を大きく受ける。日系自動車メーカーは、ワイヤーハーネスをベトナムに依存している。

 マレーシアとベトナムだけがサプライチェーンの危機を引き起こした犯人ではない。コロナの集団感染が発生し、稼働規制がかかってサプライヤーの供給が止まるなど、あらゆる国、地域で部品の調達が滞る事態が起きている。

 サプライチェーンの混乱は今も続いている。サプライチェーンの強靭化は一朝一夕にはできず部品サプライヤーと一緒に危機に対して迅速かつ的確に対応することがますます求められることになろう。

■ASEAN主要5カ国の2021年通年の新車販売台数は対前年比15%増

 2021年のアセアン主要5カ国合計の年間新車販売数は、通年で272万台。2020年比(237万台)で15%増加したが、2019年比(333万台)には届かなかった。

 2020年はコロナ以前の2019年対比でマイナス30%以上の落ち込みで、2021年は2019年対比でマイナス20%であった。コロナ以前の市場規模への回復にはまだ至っていない。

生産活動だけでなく消費活動についても、各種制限によって2020年4月に大きな落ち込みが確認できる。また、ウイルス変異株の影響で2021年7月を底として販売台数が減少している

 月別新車販売台数の推移を見ると、コロナショックによる落ち込みは2020年4月に底を打った。コロナ以前の販売台数よりも低いレベルでの推移ではあるが、2020年末まで右肩上がりを維持し、12月にはコロナ前の水準にまで回復した。

 しかし、再び2021年の1月に販売台数が減少。新型コロナウイルスの感染再拡大で経済活動の制限が厳格化されたタイとマレーシアで販売状況が悪化したためだ。

 第2波が発生し、消費者心理が冷え込んだ。その結果、両国とも新車販売台数が対前年比同月で20%以上落ち込んだ。

 2021年4~6月期は5カ国すべての国の経済がプラス成長となり、新車販売市場も上向いたが、2021年6~7月にかけて発生したコロナ変異種デルタ株の感染急拡大による影響で販売台数が減少した。

 一方、足元では回復をしており、2021年12月には主要5カ国の新車販売台数はコロナ以前比で約10%増加している。

■ASEAN主要5カ国の新車販売状況

 インドネシアの2021年の新車販売台数は予測を上回り、88万台で主要5カ国のなかでトップとなった。2022年通年の新車販売台数は90万台に達すると予測を示している。

 タイの2021年の新車販売台数は前年比4.2%減の76 万台。コロナの落ち込みの反動でプラスが期待されたが、コロナ禍で落ち込んだ前年も割り込んだ。2022年通年のタイの新車販売台数は86万台を見込んでいる。

 マレーシアの2021年の新車販売台数は、前年比3.7%減の50万9000台。コロナ以前の販売台数を超えることはできなかった。コロナショック後、感染拡大によって発令された移動制限令に大きく左右される結果となった。

 ベトナムの2021年の台数はコロナ以前の2019年の通年(2019年対比マイナス5%)を超えることはできなかったが、前年比3%増の30万5000台だった。

 フィリピンの新車販売台数は通年で22万3000台(2020年)、27万台(2021年)でコロナ以前の37万台(2019年)に比べて各々マイナス40%、マイナス27%の大幅減となった。

ちなみに2020年4月の1週目、ASEAN10カ国の1日当たり新規感染者数のうち98.7%を、フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイ、シンガポールの6カ国が占めたらしい

■各国の政府施策によるさらなる減税に期待!

 2022年に向けて自動車生産、販売台数の動向について楽観視はできない。コロナの拡大状況、サプライチェーンの構築、半導体の確保などの長期的な課題もある。が、

・2020年6月以降にマレーシアが行った景気を刺激するために乗用車にかかる10%の売上税に対する減免措置
・2021年にインドネシアが消費喚起のために行った新車購入時の奢侈(しゃし)税減免措置
・ベトナムで行われている国内の自動車生産と販売を促進するための減税措

 など、政府による的確なコロナ対応施策と迅速な対応が2022年度以降の新車販売台数を大きく左右するだろう。

政府による的確なコロナ対応施策が2022年度以降の新車販売台数を大きく左右する。今、ASEAN各国は減税している。日本はどうだ(Deemerwha studio@AdobeStock)

<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職し、アセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年より自らを「日本とアジアの架け橋代行人」と称し、アセアンプラスコンサルティングにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。2017年よりアセアンからの自動車整備エンジニアを日本企業に紹介する、アセアンカービジネスキャリアを新たに立ち上げた。専門分野はアジア自動車市場、アジア中古車流通、アジアのアフターマーケット市場、アジアの金融市場で、アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員


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