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総理に最も近い女性 高市早苗氏が22年乗った愛車A70スープラのレストアプロジェクト始まる!

 奈良2区選出の自民党衆議院議員、政調会長を務める高市早苗氏。自分のお金で初めて買ったA70スープラに22年間も乗り続けていたことが2021年9月の衆議院選で話題となり、クルマ好きの間で共感をよんだことは記憶に新しい。

 その“スープラ高市早苗号”は、自身の手元を離れ、地元奈良で大事に保管されてきたそうだが、新車の購入先でもある奈良トヨタがレストアを始めるという。

 それに先立ち、2022年2月17日、奈良トヨタは、「奈良トヨタ80周年記念事業 ST(さなえたかいちのイニシャル)スープラ80レストアプロジェクト発足式」を行った。

 さて、高市早苗さん所有のA70スープラのレストアプロジェクトとはどんなものなのか? そして、A70スープラは今どんな状態なのか? 高市さんの高校の後輩でもある、モータージャーナリストの西川淳氏がレポートをお届けする。

文/西川 淳
写真/タナカヒデヒロ(まほろばミュージアム)、大田中秀一(スープラ)

【画像ギャラリー】かずえシーマに続け!! 高市早苗氏が所有する『さなえスープラ』とまほろばミュージアム展示車両(34枚)画像ギャラリー

■“スープラ高市早苗号”のレストアプロジェクト始まる

西川氏が十年くらい前に高市氏にインタビューした際に送っていただいたという写真。この時点では奈良33ナンバーがついており、自ら運転している写真も残っている
奈良2区選出の自民党衆議院議員、自民党政調会長の高市早苗氏が所有するA70スープラと筆者・西川淳氏(2021年9月の衆院選時に撮影)

 日本人初の女性総理大臣に今最も近い位置にいらっしゃる、自由民主党衆議院議員の高市早苗さん。

 同じ奈良県出身で、母校の先輩(四つ上なので学校でお見かけしたことは残念ながらない)という縁もあって以前、もう十年くらい前になると思うが、議員会館でインタビューさせていただいたことがある。その際、クルマとヘビメタ好きであることを伺って、グッと親近感が増したものだ。

 直前に自民党総裁選に出られたこともあって抜群の人気と高い知名度で迎えた2021年9月の衆院選では、全国の他候補応援に忙しく、地元奈良での選挙活動もままならず。その分身として選挙事務所前に飾られて大いに話題となったのが、白いA70スープラだった。

 インタビューでもスープラが話題に上ったことを思い出す。本当にバイクやクルマがお好きで、スープラで奈良と東京を往復されることも珍しくなかった。

 きっと当時(1990年代)はまだ新東名も名古屋湾岸もなかったから、東名から名神、大垣あたりで降りるか名古屋高速を経るかして、東名阪、名阪国道、西名阪というルートだったに違いない。筆者も同じ道をよく走ったものだ。どこかで早苗先生の駆るスープラと遭遇していたかも……。

 「まだスープラは地元にあるのよ。どうしたものかしらねぇ」、なんてことをおっしゃっていたように思う。まさかそのまま保管され、今になって再び登場してくるとは思いもよらなかった。

 しかも、そのスープラが高市早苗さんにこのスープラを新車で販売した奈良トヨタグループによって正式にレストレーションすることが、2022年2月17日に発表された。

 奈良トヨタグループ社員のなかから有志を募り、プロジェクトチームが立ち上がったのだ。実は奈良トヨタグループは最近とみにクラシックカーレストアに熱心なディーラーだ。

 初代カローラや初代クラウンなどのフルレストアプロジェクトを既にいくつか完遂しており、2021年11月にはなんと専用の展示場所として「まほろばミュージアム」までオープンした(詳細は後述する奈良トヨタ社長菊池攻氏のインタビューをご覧ください)。

 ミュージアムには初代カローラや初代クラウンのほか、セリカLB、スポーツ800、初代MR2など人気モデルも飾られており、珍しいところではトラックのスタウトまでレストアしている。もちろん全て、奈良トヨタグループの社員が創意工夫を重ねてレストアした個体である。

 ミュージアムの題字はオリンピアンでマラソンランナーの有森裕子さんが手がけ、ミュージアムには珠玉のクラシックカーのほか、元近鉄バッファローズの久保康生投手のメモリアルユニフォームなどの展示、昭和の懐かしい部屋を再現したコーナーを設けるなど、入場無料ながら家族ぐるみで気軽に楽しめる空間になっている。ちなみにクラシックカーの博物館としては奈良県で初めての施設だ。

■レストアが施される前のスープラ高市早苗号は今どんな状態?

スープラ高市早苗号は2.5GTツインターボリミテッド、スーパーホワイトパールマイカ。22年乗り続けたという
TOM’Sステッカーと時代を感じさせるダイバーシティアンテナ。落選中はスープラのなかでB’zの曲を聴きながら自分を励ましていたそうだ

 というわけで、前置きが長くなってしまったが、レストアを施す前のスープラ高市早苗号を早速チェックしてみよう。

 スープラ高市早苗号は2.5GTツインターボリミテッドのワイドボディで4AT仕様だ。1990年にA70スープラ最後のマイナーチェンジが行われ、そのタイミングで登場した追加グレードでもある。

4AT。走行距離は7.7万km。珍しいマル―ンのインテリアカラー

 スーパーホワイトパールマイカのボディに同色系サイドモールカラーが組み合わされている。インテリアカラーは非常に珍しいマルーンで、本革+エクセーヌのオプショントリムだ。オドメーターは7.7万kmを指していた。

 選挙事務所に飾るため、ある程度磨かれたのだろう。10年以上も不動であったにしては、パッと見た目にキレイな状態だ。アシもしっかり立っている。タイヤはダンロップのルマン702。おそらく飾るために急遽、履いたのでは?

 トムスのステッカーやパナソニックのカーナビ、そのダイバーシティアンテナ類、輸出仕様(っぽい)リアサイドマーカーなど、クルマ好きが乗っていた個体という雰囲気が全身から発散されている。室内には当時のカタログまで残されていた。よっぽど気に入って乗っておられたのだろう。

 けれどもホイールセンターやモール、ウィンドウフレーム、ミラーベースなどボディ以外の塗色部位にはペイントの剥離や劣化が目立つ。

 ちなみに取材時は不動で、そもそもバッテリーはおろか、燃料タンクも外されていた。初めて知ったのだが、バッテリーがない状態でも機械的にヘッドライトを開ける方法があった。開けてもらったところ、ヘッドライトには蜂の巣が。保管時に車体右側に陽が当たっていたのだろうか、そちら側の劣化が少し激しい。

搭載されているエンジンは1JZ-GTE型2.5L、直6ツインターボで280ps/37.0kgmを発生
ダッシュボードの割れや擦れなどレストアの難所となりそうなコクピット

 インテリアのコンディションは年式相応だ。ダッシュボードの割れがひどく、珍しいカラーだけにレストアの難所になりそう。ステアリングホイールやインナードアノブなどよく使う場所もかなり劣化していた。翻ってあまり人を乗せたことはないのだろうか、特に後席などは新車のようだ。

 とはいえ、奈良トヨタは以前にA70スープラのレストアを経験している(赤いボディカラーの個体)。エンジンやシャシー周りに関してはノウハウもバッチリで、問題なく進むことだろう。問題は内外装のプラスチックパーツをどう仕上げていくか。プロジェクトの進行が楽しみでならない。

 完成後はもちろん、「まほろばミュージアム」にて展示される予定だ。完成したスープラ高市早苗号はもちろんのこと、近い将来、その蘇ったスープラの横に「日本人初の……」という謳い文句が飾られることを一後輩として大いに期待したい。

国会議事堂のイラストと国会記念と記されたキーホルダーに取り付けられたスープラのキー。高市さんはレストア後、このキーを再び捻り、乗ることを楽しみにしているだろう

■レストア事業やまほろばミュージアムをオープンさせた奈良トヨタ代表取締役社長・菊池攻氏にインタビュー

奈良トヨタ代表取締役社長・菊池攻氏


インタビュアー/西川 淳、まとめ/大田中秀一、写真/タナカヒデヒロ

 最後に、レストアが完成した車両を展示する自動車博物館「まほろばミュージアム」を2021年11月のオープンさせた奈良トヨタ代表取締役社長・菊池攻氏にレストア事業について話を伺った。

西川(敬称略):レストアを始めたきっかけと、これまでの車種についてまずは教えてください。

菊池(敬称略):2004年にある方から「このコロナ、菊池さんとこでなんかええようにできないか?」と訊かれたことがきっかけで二代目トヨペット・コロナ(1962年式RT20型)をレストアしました。それが始まりです。

 10年後の2015年に全国トヨタ店プロジェクトのためのクラウン(1962年式RS31型)のレストアが2台目ですね。そして2016年に初代カローラ(1967年式KE10型)を手がけました。カローラ生誕50周年記念の年でしたから、じゃあシンボルであるカローラもやろうじゃないかということになって。

 昨年2021年は奈良トヨタとトヨタカローラ奈良の合併という大事業があり、さらに今年は創立80周年という大きな節目の年を迎えます。

 その2つを合わせた記念事業として“S&S80レストアプロジェクト”を立ち上げ、スポーツ800(1966年式UP15型)のレストアを手掛けることにしました。80周年、スポーツ800と8をかけたわけですね。

 そんな最中にスタウト(1967年式RK101型)が突如現れたんですよ。ある団体の構内だけで使われていた個体で走行距離が「たった500キロ」。まさに「奇跡の個体」です。このお話をいただいた時はほんとうに驚きました。

 それら以外にも「自分のもやりませんか?」と、社員から申し出があったスープラ(1992年式JZA70型)をはじめ、トヨタにとっては歴史的なモデルである初代セリカリフトバック(1975年式TA27型)やMR2(1989年式AW11型)もレストアすることになり、気がつけば8台になっていました。

西川:レストア専門チームがあるのでしょうか?

菊池:プロジェクトのたびに新しいチームを組んでいます。年齢も20代から50代までの男女で構成されたチームです。

 世代や拠点が離れているためか普段はあまり突っ込んだ交流のないエンジニア達が、自動車の原点に触れながらコミュニケーションするなど、普段では得られない体験ができるのもメリットだと思っていますし、古い世代のクルマを触ったことがない20代のエンジニア達も興味津々で活き活きと作業してくれているようです。

 個々人のアイディアや工夫を盛り込みながら情熱的に取り組んでくれているのも見ていて頼もしいですね。細部への拘り具合もすごいんですよ。日ごろ光が当たりにくいエンジニア達にスポットを当てたいという思いもあったのですが、成功していると思います。

 レストア作業そのものは、週に一度「レストアの日」を定めて集中して行ってもらいました。一年に二台仕上げられるくらいのペースですね。

レストアが行われた1967年式トヨタスタウト


西川:実際のレストア作業において、特別な工夫やこだわりはありましたか?

菊池:例えばスタウト。引き取ったときには荷台がついていなかったので、ネットで探して北海道から取り寄せました。かなり錆びていたので一枚物の鉄板で作り直した部分もあるんですが、当時の資料を調べて新車時にはあった溶接痕をわざわざつけ、緩衝ゴム類も塊から削り出し、ステッカー類もワンオフで製作するなど、細部にも拘って仕上げてくれました。

 また、ここにあるミゼット以外の個体は全てナンバー付きの動態保存なのでいつでも公道走行できます。手前味噌で恐縮ですが、どれもレベルの高い仕上がりになっていると思います。

 スポーツ800とスタウトを“昭和レトロカー万博”に展示したときには黒山の人だかりができていましたし、「こんな完成度の個体は見たことがない」と言っていだだけました。

■レストアした名車を常時するミュージアムはこうして生まれた


西川:まほろばミュージアム作ったきっかけは何だったのですか?

菊池:レストアした最初の3台(筆者注:コロナ、クラウン、カローラ)は各種イベントや奈良モーターフェアなどで展示したり、レクサス奈良八条のリニューアルの際にしばらく展示していたり、というくらいで日ごろはしまってあったんです。

 そんなある日、「せっかくレストアした名車達なんだから、いっそ展示しませんか?」というエンジニアの問いかけをきっかけに、常時展示を本格的に考え始めました。80周年記念事業のランドマークにもなるし、お客様にも喜んでもらえるだろうとも思ったので。

 この場所は、中古車屋内展示場だったんですけれど、元々はファストファッションの店舗だったためロフト感たっぷりの雰囲気で、広さもちょうどよかった。幹線道路沿いでアクセスもいいので、レストア車を展示するスペースとしては抜群じゃないかと思い、ここに博物館を作ることを決めたのです。

 展示に関しても人任せにはせず自分たちで考えて作り込んでいます。ホッとできる憩いの空間にしたかったのですが、そのためには手作り感が大事だろうということで、入口横の「昭和レトロコーナー」も自分たちでグッズを持ち寄ったり借りてきたりしたアイテムを展示しています。

 レストア車以外にも有森裕子さんの揮毫、元近鉄バファローズ投手の久保康生さんのユニフォームなどのご縁のある方々の貴重な品々も展示できたので、自動車メインではありますが、憩える懐かしい空間にできたんじゃないかと思っています。近鉄バファローズファン、阪神タイガースファンにもきっと喜んでもらえることでしょう。

レストアプロジェクトで蘇らせた名車を展示するまほろばミュージアム。展示車両は2代目コロナや初代クラウン、A70スープラ、ほかレストア車両8台を展示。高市早苗氏のスープラはレストアされた後、まほろばミュージアムに展示される予定


所在地:奈良県奈良市八条5丁目431-1
営業時間:午前10時~午後5時(月曜日定休)


西川:これだけの台数をこなすと、あちこちからレストアを頼まれませんか? クラシックカー好きの私としても「奈良トヨタに持って行ったら何とかしてくれるんちゃうか?」と淡い期待を抱いてしまいますし。レストアを事業として行う計画はあるのでしょうか?

菊池:実際に何件か問い合わせをいただいています。先日も野ざらしのカローラレビン(TE27型)復活の話がありました。でもまずは奈良トヨタ本社で預かっている“早苗さんのスープラ”を先に行います。

 2月にスタートするべくメンバーの募集し、キックオフを行いました。30年前と比較的新しいクルマだからメンバーも新しい人達が多く集まっています。

 レストアの事業化ですが、いずれ電気自動車の時代になれば人員に余裕もできるでしょうから、その時になれば考えられるかもしれませんね(笑)。

西川:きっかけがあったにしてもその後も続けこれだけ台数を増やすのは経営的にもチャレンジな気がしますが?

菊池:エンジニアのモチベーションが上がって活き活きしている顔を見るのは嬉しいので今後も続けていきたいですね。サービス技術の伝承としての価値もかなり高いですし。

 また、“全てのご縁を生かして地域社会に貢献する”という私の思いの体現になるとも思っています。奈良には神社仏閣たくさんあるけれど産業遺産を見る場所がほとんどありません。大人と子供が一緒に楽しめるような場所を作りたい。それもまたミュージアム設立の動機の一つでもありました。

 奈良という風土に見合う形で自動車文化へ貢献する一つの方法として、こういうこともありなんじゃないか、と思っています。

レストア済みの1992年式A70スープラ。高市さんのスープラもレストア完成後に飾られる予定


西川:奈良に合ったと言われれば奈良の人には響きますね。奈良出身の私にも。ところで、ディーラービジネスが変わっていきそうななか、奈良らしい自動車ビジネスの形ってあるでしょうか? 元々奈良の自動車販売の先駆けで礎を築いた奈良トヨタとしては、古いクルマのレストアもやりつつどのようにディーラー経営環境が変っていくのでしょうか?

菊池:トヨタのチャネル別販売政策もなくなったので、奈良トヨタグループのブランド価値をどう高めていくかを自分たちで考えなければならなくなりました。でも同時にディーラーの自主性に任せるようにメーカーの施策も変わってきたので、自分たちで工夫する余地が大きくなったとも言えます。

 ビジネス面では、都市部と山間部の違いが大きく、過疎率が高い地域もあります。高齢化地域も含めてこの辺りへのアクセスや細かいサービスをどう展開していくかが当面の課題になろうかと思います。

 社会貢献という面では、唐古・鍵遺跡で警察、消防、自衛隊などの協力を得て奈良トヨタと地元自治体(田原本町)と共催しているアウトドア&防災フェスタを引き続き開催します。レストアを通じてトヨタスポーツ800オーナーズ協議会とのお付き合いもできましたので、2022年のイベントではパレードなどもできないかと思っています。

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