ホンダGB350/Sのセールスが絶好調だ。2021年の発売以来、勢いは留まることを知らず、今から予約しても2022年内の納車は難しいほどの人気っぷり。
251cc以上の販売トップに立つのは必至だ。なぜ、そこまで人気なのか? 販売店への取材などを通して理由を分析してみた。
文/沼尾宏明、写真/HONDA
【画像ギャラリー】GB350にはスポーティなGB350Sもある!(11枚)画像ギャラリー総受注は驚異の9000台、ホンダのシェアを2倍に押し上げた!
元来GB350は、2000万台規模を誇る世界最大の二輪マーケット、インド市場をターゲットにしたバイク。それが日本でも爆発的ヒットを飛ばしたという変わった出自を持つ。
インドではハイネスCB350の車名で2020年秋に発売され、わずか半年で1.8万台を販売。国内では2021年4月にデビューし、年間約4000台のセールスを記録した。集計期間が短いにもかかわらず、二輪車新聞の251~400ccクラスの推計販売ランキングではSR400の6966台に次ぐ2位の成績。インドとは比べ物にならない数字だが、約40万台という日本市場においては大ヒット商品だ。
その勢いは凄まじく、2021年の251~400ccクラスにおけるホンダの販売シェアは前年比2倍で、約35%にまで押し上げた。
情報筋によると「これまでGBの総受注数は9000台程度。月産500~600台とフル生産が続いているが、全台納車まで2022年10月くらいまでかかる見通し」という。これ以上注文が増えると、年内の納車が難しくなる可能性もあるだろう。
そして、このまま順調に生産されれば、2022年だけで5000台超が市場に流れ、251cc超のバイクで年間販売トップに輝く可能性が高い。
現場のナマの声では「バイクらしいスタイル」が人気の理由
何台ものGB350を販売してきた、都内の「ホンダドリーム江戸川」に人気の理由を聞いてみた。
まず購入者の年齢層は、「30代がボリュームゾーンで40代も多い。20代、50代も少しいらっしゃいます」という。
新車バイクの購入平均年齢は54.7歳(2019年度 自工会調べ)。これに比べると、やや若い層に支持されているが、幅広い年代のライダーから人気を獲得していると言える。
人気の最大の理由は「スタイル」と分析。若年層と40代以上の購入者で傾向は若干異なるものの、まずスタイルでGBが選ばれているようだ。
30代前後の購入者は免許取り立ての人が多く、「そもそも“バイクはスポーティ”との認識があるようです」と話す。10年ほど前から身近なバイクとして、ニンジャ250、CBR250RRなどフルカウルのスポーツモデルが流行した影響もあるのだろう。そんな状況で登場してきたGBは、丸1眼ヘッドライトにエンジンが際立つ造形、丸いタンクなど、いかにもバイクらしいスタイルを持つ。
「“普段着で乗れて、オシャレなので選んだ”という声が多いですね」
また40代以上は、昔スポーツバイクをたしなみ、ブランクを経て再び乗り始めたリターンライダーの購入者が多い。こうした層にはGBのように落ち着いたレトロ調のバイクがツボにハマる。以前のように飛ばさなくてもサマになり、ライポジも安楽だからだ。
「2012年発売のNC700Xが当時流行しましたが、同じような感覚かもしれません」という。
251~400ccクラスの現行モデルでこうしたクラシカルなモデルはほぼ存在せず、世代とは関係なくGBに人気が集中しているようだ。
このクラスで懐古的なバイクと言えば、2021年に生産終了した「SR400」が代表格だったが、SRのように単気筒の味わいを求めるユーザー層とは異なるようだ。
「単気筒というエンジン形式を知らないで来店する方が多い。比較検討する車種はSRではなく、クルーザーのレブル250というパターンがほとんどですね」という。
レブルと同様、“スタイルにクセがなく、バイクらしいスタイル”というのが一番の購入動機と言えそうだ。
なお、GBは2021年3月の国内発表当初から問い合わせが多く、店舗に展示している実車を見てさらに人気が加速した印象あるという。
「写真と違って人の目線から見ると、特にGB350は陰影がはっきりし、質感の高さもわかる。車体も大きすぎず、小さすぎないのが好評です」
価格はレブル250より手頃、人気はSTDの方が高い
そして第二のポイントは「価格」。「スタイルがカッコイイ」とネットで調べてみると、税込55万円(S=59万4000円)と意外にも手頃で、ワンクラス下のレブル250(59万9500円)よりも安い。
一方、乗り味の面では、足着き性で評価が別れるという。
シート高はやや高めの800mmで、サイドカバーがやや張り出し、身長160cm前後だと足が届かない場合も。そのため女性の割合は「10%いかない程度。GBにまたがってみて、足着きの関係でレブルの購入に至るケースがあります」という。
ちなみにレブル250はシート高690mm。男性:女性の購入層では8:2程度とのことだ。自工会の2019年度調査では、大型オンロードバイク購入者の女性比率は1%。400ccクラスで4%、250ccクラスで7%。GBの女性人気は決して低いわけではなく、レブルが突出して高いのだ。
なお、STDとSグレードでは、6:4か7:3程度でSTDが人気。やはりスポーティなスタイルのSより、クラシカルなフォルムのSTDが好まれている。
車体色に関しては、STDではマット系(青、黒)を選ぶ人が多め。赤はやや年齢層が高かったり、実車を見て高級感のある色味が気に入るケースがあるという。Sは、グレーが人気だ。
使い方としては、「ロングツーリングではなく、ライフスタイルに寄り添った街乗りなどの用途が多いようです」という。
最新技術で実現、全域での「気持ちよさ」
続いて、開発の背景とインプレについても簡単に触れ、人気の理由を探ってみたい。
開発にあたっては、「日常から遠出まで~The Honda Basic Roadster」をコンセプトに掲げた。
開発の指標には数値化できる「性能」が掲げられることが常だが、GBでは180度異なり、「気持ちよさ」を追求。バイクの気持ちよさとは、エンジンの「鼓動」であり、鼓動=心地よい振動+排気サウンドと定義して、パワーユニットの開発に落とし込んでいる。
これが見事なまでに成功しているのだ。
鼓動は明確に感じられるほどに分かりやすく、乗れば誰でもすぐに味わいが感じられるはず。発進で「ド、ド、ドド、ドドド」と加速していく時や、シフトアップした際に一度落ちた回転を上げていく時はもちろん、巡行しながらでも明確に鼓動が感じられ、気持ちいい。
また、ホンダが打ち出した鼓動の定義に排気サウンドがあるが、これも歯切れがよくトルクの立ち上がりと連動して耳に入ってくる。
そして感心したのが、乗っている時間の全てで気持ちいいということ。これはかなり重要で、一般的に鼓動感が強いと言われるモデルでも、実際に鼓動が気持ちよさに直結するエンジン回転域が低速のわずかな領域にしかない場合もある。
加えて、テイスト系のバイクは多く存在するが、どれもが狙って作られたわけではない。
ところが、GB350は公道で走行する0~100km/hの速度域の全てで気持ちよく走れる。高度なテクノロジーで気持ちよさを徹底的に追求し、ピュアな鼓動の味わいを新車で生み出すことに成功しているのだ。
引き算の美学で機能美を達成、ライポジはカブを参照!
外観デザインについては、「Massive & Shaped Design」がテーマ。簡単に言えば「抑揚」だが、バイク本来の美しさを“機能美”と捉え、“それがどう進化してきたのか”への想いを注いだ。
余白や引き算の考えも必要だった。部品一つひとつのサイズや形状、配置、素材と表面処理。車体全体ではそれら相互の響き合いも関わるため、各技術領域のメンバーが協力し合い、何度も設計し直して今の姿に行き着いた。
さらに、またがった状態でライダーの存在が際立つ車体構成も狙った。そのため、スッと伸びた上半身と車体側面に自然とヒザが位置する、堂々としたライポジとしている。
ライポジに関しては、通常のバイクより多くの人に受け入れられているスーパーカブやスクーターに近いものを採用。積極的にニーグリップしなくても、安心して扱える車体重心を設定したという。
スポーティさより、普遍的なバイクらしさが求められている
ホンダドリーム江戸川の話を聞いて、1989年発売のゼファー(400)に端を発し、90年代前半に巻き起こったネイキッドブームを筆者は思い出した。
当時は高性能&高価格化が進んだフルカウルのレーサーレプリカに対し、買いやすい価格と適度な性能、そしてバイクらしいスタイルのネイキッドが投入され、大きく支持された。
現代でも構図は似ており、最近まで人気だったフルカウルの250スポーツに対して、より安価で性能を求めず、いかにもバイク然としたネイキッドのGBやレブルが時代にマッチしたと言えないだろうか(もっともレプリカ~ネイキッド時代と比べ価格と性能差はさほどないが)。
さらに、現代の優れた技術でレトロなスタイルと、クリアな味わいを狙って両立しているのがGBの新しさだろう。
あとはコロナ禍が落ち着いて生産台数が増え、GB350の楽しさが多くの人に触れられるようになることを祈るばかりだ。
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