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レクサスLMの日本投入は本当か? 改めて中国で販売中のレクサスLMを徹底分析

 2019年の上海モーターショーでお目見えし、2020年から中国市場で販売されているレクサス初のミニバン「LM」。アジア地域やインドを中心に、精力的な販売を続けているLMだが、2022年2月現在、日本国内への投入はされていない。

 そんななか、トヨタの地元である愛知県の経済紙「中部経済新聞」が、2022年2月1日に、驚きの記事を出した。見出しは「レクサスミニバンを国内導入、3年以内発売、田原に生産移管」となっており、LMの国内販売を連想させる。

 本当にLMが日本に入ってくるのだろうか。また、日本に投入された場合に、どのような影響があるのかを考えていく。

文/佐々木 亘
写真/トヨタ

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■突然の報道! 振り回される現場

 トヨタ・レクサスの新型情報が、愛知の新聞社から発信されることが増えた。記憶に新しいのは、中日新聞が報じた「クラウンSUV」の一報だ。取り上げた新聞社は違うが、愛知発というところは共通する。

 この報道に関しては、自動車関連の各媒体はもちろん、レクサスの販売店も寝耳に水だったようだ。

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2020年2月24日から中国市場で発売されたレクサスLM300h。価格は7人乗りが116万6000人民元(約1772万円)、4人乗りが146万6000人民元(2228万円)

 LMは上海での発表時から、日本導入可能性が非常に低い車種として位置づけられていた。中国で発売されてからは、日本国内のレクサス販売店へ問い合わせが増えたが、レクサスセールスコンサルタントは「アルファードがある限り、レクサスにミニバンは入らないでしょうね」と説明してきたという。

 今のところ、メーカーからの公式な発表はなく、販売店への通達もない。筆者が訪れた販売店のラウンジからも「まだ何もわからないんで、お答えができないんですよ」と困り顔で、オーナーに対応するスタッフの声が聞こえてきた。

■中国という市場だからLMが必要

 今や世界のなかでも随一といっていいほど高級車が売れる中国。トヨタ車の販売も好調であるが、特に上級ブランド化されたレクサスが販売台数を伸ばしている。

 加えて、アジア圏には箱型クルマの文化が根付く。欧州や北米市場ではあまり支持が薄い「ミニバン」や「キャブワゴン」が、スタンダードなクルマの形として認知されているのだ。好調な中国市場で、販路を拡大するには「高級×箱」の商品が必要となった。

 そこで登場したのが、LMだ。アルファード(ヴェルファイア)という日本で実績十分の箱を、中国へもっていった。せっかくならば好調に認知されているレクサスから出したほうが良いと、アルファードよりも高級・上質であることを強く訴求し、中国の富裕層を狙い撃ちした形だ。

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レクサスLMは、アルファードに比べ全長が90mm近く延びている
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基本的なデザインはアルファードと変わらないレクサスLMのコクピット
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写真の仕様は6人乗りだが、中国市場においては「ロイヤルエディション」という4人乗りの豪華仕様が存在する

 他のアジア圏でも販売されているが、LMの実質的な立ち位置は中国専用車に近い。

 対して日本には、まだ「高級×箱」の文化が根付いていないし、需要も少ないだろう。アルファードが売れているが、価格帯としては500万円~700万円のレンジであり、高級価格帯までは至らない。少なくとも1,000万円超の価格でアルファードが出てきたら、売れるだろうか。今なら、答えは否だ。

■LMとアルファードはどう違う?

 LMとアルファードは、具体的に何が違い、価格の差はどこから生まれているのかを考えていこう。

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ボディサイズは全長5040×全幅1850×全高1945mm
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ボディサイズは全長4945×全幅1850×全高1935mm(純ガソリン FF仕様)。ホイールベースは3000mmでLMと同一なため、前後オーバーハング長さで全長差が出ているようだ

 ボディスペックを比較すると、LMの全長がアルファードよりも90mm長い。同一のプラットフォームを使っているため、ホイールベースは3,000mmと同値だ。エンジンは2AR-FXEの2.5L、2モーター式のハイブリッドシステムも共用する。

 エンジンスペックでは、アジア仕様のLMが若干劣るが、基本的にはアルファードと同じパワーユニットと考えて差し支えない。エクステリアデザインはレクサスのアイコンであるスピンドルグリルが搭載されるため、一目でLMとわかるものだが、さらに大きく違うのは内装だ。

 アルファードは7人乗りミニバンが基本コンセプトであり、最上級のエグゼクティブラウンジを選んでも、しっかりと3列目シートが付いてくる。対するLMには3列7人乗りもあるが、人気があるのは2列4人乗りのグレードだ。

 遮音・吸音に気を遣うのはレクサスであるから、アルファードとは当然の違いだが、他にも液晶ディスプレイが大型化され、前後席間にパーティションを備えるなど、リムジンのような使い方を想定する装備が奢られる。アルファードよりも、さらに強烈なVIP専用車が、レクサスLMというクルマだ。

■LMの日本投入はあるのか?

 生産工場が変わることで、LMの日本導入は可能性を大いに高めたと思う。ただし、LM導入前にクリアにしなければならない問題がいくつかある。

 その一つがアルファードとの併売によっておこる混乱だ。

 現在、レクサスブランドのラインナップには、トヨタ車をベースにした兄弟車は存在しない。兄弟姉妹として販売されていたのはHS250hが最後だ。トヨタと近しいコンセプトのクルマはあるが、レクサスラインナップについては、派生ではなく独立したモデルというスタンスを貫いている。

 セルシオがLS、アリストからGSのように、トヨタからの派生を続け、北米で生き残ってきたレクサスだが、日本国内導入された後は、特にレクサスが独自のブランド力を構築する必要が出てきた。

 それはトヨタの高級ブランドではなく、世界で戦える高級ブランドになるためだ。いつまでもトヨタに寄りかかった形では、到底メルセデスやBMWなどのライバルには勝ち目がない。

 SAIの高級版で失敗したHS、立ち位置がなくなってしまい姿を消したGSのように、明らかにトヨタからの導線を引いたクルマでは、レクサスでの独り立ちは望めない。LMもベースとなる現行アルファードが残っている限り、常に「アルファードの豪華版」と言われてしまい、トヨタの柵が残り続けることになるだろう。

 今のLMを国内導入するのならば、まずアルファードのフルモデルチェンジが先だ。LMとアルファードの関連付けを無くし、それぞれを独立させることで、HS・GSと同じ過ちは繰り返さずに済むと思う。

 また、レクサス販売店も、元をたどれば全国各地のトヨタ販売店が運営する。併売状態では、違いが見えず、トヨタ販売店もレクサス販売店も中途半端な対応に終始せざるを得なくなるはずだ。

次期アルファード
現行型に対しグリルがさらに大きくなっている新型アルファード予想CG。顔面とは逆に、印象的だったボディサイドの造形が一般的なミニバンライクになっているように見える

 2022年末から2023年初頭に、アルファードがモデルチェンジすれば、3年以内のLMの投入は現実味を帯びてくるだろう。具体的にアルファードとLMをきっちり住み分けて、LMには明確なショーファードリブンを体現してもらいたい。

 さらに、LMの国内導入時には、マイナーチェンジ(もしくは一部改良)が必須となる。中国仕様のままでは、日本のショーファードリブンには性格が合わない部分が多いからだ。特にコストをかける所と削るところの分別は、きっちりつけないと、車両価格と内容が見合わなくなるだろう。

 アルファードFMCからのLM導入、この順番が逆になってしまうと、日本でしっかりと築かれつつある、レクサスブランドの求心力も落ちる。

 LMの日本導入は、アルファード次第であり、BEVのフルラインナップなど、同時並行して様々な変革を行っているトヨタ・レクサス陣営にとって、LMの導入が急ぐべきことなのかは疑問が残る。それでも、ミニバン大国日本に、LMを投入する可能性が高まったことは喜ぶべきだろう。

 3年以内という時期を区切らず、手順良く導入すれば、LMは日本でも受け入れられる存在になるはずだ。まだ数年のスパンが必要になるが、焦らず万全な形でLMを日本に投入してもらいたい。


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