2001年に初代が登場し、またたく間にヒット作となったホンダ フィット。コンパクトカーでありながら広い室内と燃費性能で2002年には国内販売総合1位となった。
しかし、最近の販売ではライバルのトヨタ アクアが好調だ。2021年9月から12月の平均月販をみると、アクアはフィットの2倍に迫ろうかという売れ行きを見せている。
フィット不調とアクア好調の理由を渡辺陽一郎氏に分析してもらった。
文/渡辺陽一郎、写真/TOYOTA、HONDA
■フィットの売れ行きに異変!?
最近の販売ランキングを見ると、2021年7月に発売されたアクアが好調だ。
現行型の販売が軌道に乗った2021年9~12月の登録台数は、1か月平均で約8700台に達する。同じトヨタのヤリス(ヤリスクロスとGRヤリスを除く)は約5700台だから、アクアはノーマルエンジンを用意しないハイブリッド車なのに、ヤリスの1.5倍も売れている。
それならライバル車のフィットはどうか。2021年9~12月の登録台数は、1か月平均が約4700台であった。アクアの約8700台に比べると大幅に少ない。なぜフィットの売れ行きは伸び悩むのか。
フィットの初代モデルは2001年に発売されてヒット作になり、2002年には1か月平均で2万台以上が登録され、国内販売の総合1位になった。
人気の秘訣は、コンパクトカーに必要な魅力を数多くそろえたことだ。燃料タンクは現行型と同じく前席の下に搭載され、室内が広い。全長が4m以下のボディなのに、4名で快適に乗車できた。
初代の1.3Lエンジンは、2つの点火プラグを備えたi-DSIで、10・15モード燃費は23km/Lと当時では優秀だった。最大トルクの12.1kg-mは、実用域の2800回転で発揮されて運転もしやすい。
しかも売れ筋になるAの価格は、実用装備を充実させて114万5000円と割安だ。初代フィットの登場後は、ヴィッツなどのライバル車が一斉に装備と価格を改訂した。そうしないと各種の機能に加えて、価格でも初代フィットに負けるからだ。初代フィットが登場した時、コンパクトカー業界には緊張が走った。
この後のフィットは、基本路線を変えずに進化を続け、2007年には2代目になった。2010年にはハイブリッドを加え、2011年には東日本大震災に見舞われながら、1か月平均で約1万7300台を登録して人気を得た。2013年には3代目、2020年には現行型の4代目になり、商品力を一層強化している。
現行フィットでは、フロントピラー(柱)の形状を工夫してインパネの上面も平らに仕上げ、前方視界を向上させた。サイドウインドーの下端も現行型では水平基調になり、側方と後方の視界も良い。つまり前後左右ともに見やすくなった。
内装にも開放感があり、居住性は前後席ともに快適だ。身長170cmの大人4名が乗車した時、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半に達する。前後の頭上と足元空間の広さは、ミドルサイズSUVのCR-Vと同等だ。
また燃料タンクは、初代モデルからの伝統で前席の下に搭載したから、後席は床面へ落とし込むように小さく格納できる。格納された状態では、ボックス状の広い荷室になる。
ハイブリッドシステムは現行型でe:HEVに刷新され、エンジンは主に発電、駆動はモーターが受け持つ。アクセル操作に対する反応が機敏で加速は滑らかに感じられ、ノイズは小さい。走行安定性と乗り心地も向上した。現行型は優れたコンパクトカーに仕上がっている。
それなのに前述の通り売れ行きが伸び悩む。この背景には複数の理由がある。
■フィットが苦戦してアクアが好調な理由
まず商品自体では、現行型になって内外装を大きく変えたことが影響した。前述の通り視界は向上したが、フロントマスクは個性を強めた。水平基調のボディサイドも、デザインの見栄えとしては躍動感が乏しい。従来型に比べると、総じてキレの良さが薄れた。
内装も2本スポークのステアリングホイールは、一般的に見慣れない。グレード構成としては、SUV風のクロスオーバーを加えたが、3ナンバーサイズに拡大される。スポーティなRSは、ネスというグレードに変わって選びにくい。
販売面では、フィットの需要や販売力がN-BOXに奪われた。N-BOXは2021年に1か月平均で1万5745台を届け出しており、国内で新車として売られたホンダ車の33%を占めた。
しかもN-BOXの売れ筋価格帯は150~200万円だから、フィットの170~240万円(ノーマルエンジン車に限れば170~210万円)と重複する。N-BOXは空間効率を追求して天井も高いため、後席も広く快適で、格納すれば自転車なども積める大容量の荷室になる。加えて軽自動車だから税金も安い。
つまりフィットの本当の競争相手は、アクアやノートではなく、身内のN-BOXだ。先ほどフィットの欠点として挙げた外観も、N-BOXならカスタムを中心に立派に見える。内装も上質だ。安全装備の充実度も、フィットと比べてほとんど見劣りしない。
従って「軽自動車よりもコンパクトカーが上級」という見方をしなければ、多くのユーザーにとって、フィットよりもN-BOXが魅力的と受け取られる。
販売店からは「N-BOXは数年後に売却する時の査定額も高いので、フィットからN-BOXに乗り替えるお客様が多い」という話も聞かれる。
例えばN-BOXカスタムL(178万9800円)と、フィット1.3ホーム(176万7700円)で残価設定ローンを組んだ場合、価格はフィットが安いのに、月々の返済額は、N-BOXを上まわってしまう。
N-BOXは中古車市場でも人気があり、高値で売却できるため、残価設定ローンの残価(契約終了時の残存価値)も高いのだ。
残価設定ローンでは、残価を除いた金額を分割返済するから、残価の高いN-BOXは返済額を安くできる。今は残価設定ローンの利用者が増えているから、フィットはますます不利になってしまう。
■アクアの好調にはほかにも理由が
一方、販売の好調なアクアには、フィットとは逆のことが当てはまる。アクアZ(240万円)と、同じトヨタのヤリスハイブリッドZ(アクアZと同じくアルミホイールをオプション装着すると240万6500円)を比べると、価格はほぼ同額だ。
ところが3年間の残価設定ローンを組んで月々の返済額を比べると、アクアZは5万400円で、ヤリスハイブリッドZは5万1400円になる。前述の残価の違いにより、アクアZは返済額が安い。
しかも商品力を比べても、アクアはヤリスハイブリッドよりも魅力がある。アクアは内装が上質で、後席の足元空間も広い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先には、握りコブシ2つ弱が収まる。ヤリスの1つ少々に比べて余裕がある。
動力性能も異なる。アクアはバイポーラ型ニッケル水素電池を使うことで、ヤリスハイブリッドに比べると、実用回転域の駆動力が上まわる。登坂路に差し掛かり、アクセルペダルを踏み増した時の駆動力にも差が生じる。
乗り心地は、ヤリスハイブリッドは14インチタイヤ装着車を中心に硬めだが、アクアはショックアブソーバーの造りも上質で、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も長いから柔軟性が伴う。
このようにアクアとヤリスハイブリッドを比べると、居住性、内装の質、動力性能、乗り心地まで、さまざまな機能が上まわる。しかも価格はアクアが割安で、残価設定ローンでは月々の返済額まで安くなるから、アクアは売れ行きを伸ばした。
また先代アクアは2011年に燃費の優れた5ナンバー車として発売されて人気車となった。2013年と2015年には、国内販売の総合1位になっている。2014年も小型/普通車の1位だったから、今でも先代型の保有台数が多い。新型への乗り替え需要も豊富だから、現行型も売れ行きを伸ばした。
このように現行アクアには、商品力、販売面ともに、魅力的な要素が多い。
それならフィットe:HEVとアクアを比べたらどうなるか。視界、運転のしやすさ、加速の滑らかさ、後席の居住性、荷室の使い勝手では、フィットe:HEVが勝っている。内装の質感、動力性能、走行安定性ではアクアが魅力的だ。
つまりファミリーカーとしてバランスの取れた機能を重視するならフィットe:HEV、ドライバーの満足度を追求するならアクアになる。そして機能と価格のバランスを比べると、フィットe:HEVが少し買い得だ。
このように両車の実力は互角に近いが、バランスの取れた機能と価格の割安度により、勝敗を決めるならフィットe:HEVが勝る。
特にフィットのホームは、ノーマルエンジン車を含めて買い得なグレードだから、実用的なコンパクトカーを選ぶ時には購入の候補に入る。販売店の試乗車をアクアと乗り比べて検討したい。
アクアとフィットe:HEVの比較からも分かる通り、クルマの実力は売れ行きだけでは判断できない。候補車種を挙げて、実際に乗ってみることが大切だ。
【画像ギャラリー】宿命のライバル!? ホンダ フィット&トヨタ アクアの不振&好調の理由を探る(10枚)画像ギャラリー投稿 フィット苦戦はまさかの同士討ち!? 販売好調アクアとのギャップはどこで埋まるのか は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。