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TBSの朝の情報番組「ラヴィット!」で、出演者が「化学調味料」と発言したところ、その後にアナウンサーが「うま味調味料」に訂正した経緯がネットニュースに取り上げられ、波紋を呼んでいる。

画像:HiC /PhotoAC

「うま味調味料」に置き換えられた経緯

そもそも、化学調味料という言葉が、訂正しなければならないような言葉、つまり「放送禁止用語」だということを、この騒動で初めて知った人も多いのではないだろうか。

日本うま味調味料協会の、化学調味料という言葉への見解は次の通りだ。

化学調味料、ということば自体は、1960年代半ばに具体的商標と区別するために作成された用語でした。その当時の、化学万能時代にあってみればこのことばは広く受け入れられるものでした。しかし、以下の様な点で実際のうま味調味料の機能と製造法を反映していないこともあり、1980年代以降“うま味調味料”という名称の普及に努めております。(出典:日本うま味調味料協会公式サイト

味の素などの家庭用調味料が一般家庭に広く普及しだした60年ほど前は、肯定的なイメージがあった「化学調味料」という言葉。しかし、30年ほど前になると、マイナスのイメージで使われるようになったということだ。このイメージを払しょくするために、業界団体は「うま味調味料」という言い方を根付かせようとしているわけだ。

化学調味料は実際に、ツイッターでも次のような使われ方をしている。

化学調味料などの人工的な添加物を使っていないところが好きです

化学調味料を一切使わず鶏と水のみで長時間煮込んだスープ

化学調味料は一切不使用です

Nastco /iStock

日テレは「化学調味料」を使ったタレントに注意

「化学調味料」という言葉には、各局とも神経をとがらせているようで、読売テレビ元アナウンサーで同社報道局専門部長の道浦俊彦氏は、局サイトに開設中の自身のブログでかつて次のようにつづっている。

(編集部注:2019年2月の)新聞用語懇談会放送分科会で、朝日放送テレビの委員から、「『化学調味料』という言葉をどう扱っているでしょうか?」という質問が出ました。「化学調味料」という発言が生放送でゲストや出演者からあった場合、ABC(朝日放送テレビ)では、社員アナウンサーが速やかに、「『うま味調味料』のことですね」と一言、はさんでいるそうです。

出典:道浦俊彦TIME 2019年7月10日『新・ことば事情 7191「無化調」』

ブログによれば、NHK以外の民放各社はすべて、「化学調味料」を「うま味調味料」に言い換えているという。日本テレビに至っては、「スポンサーが重要なので、『化学調味料』という言葉は使わないように、毎年1回は注意喚起をしている。タレントが口にしてしまったら、マネジャーを通して注意してもらう。しかし伝わらないこともあるが…。」と「化学調味料」を使ったタレントに注意までしているという。

NHKでさえ、2002年に「日本標準産業分類」が「うま味調味料」の表記を採用していることを理由に、料理番組「きょうの料理」では「うま味調味料」と表現すると決めているそうだ。

なお、このニュースを報じるヤフーニュースのコメント欄では、テレビ番組制作者を名乗る人が次のようにコメントし、番組やテレビ局への圧力があったのではと指摘。ネット民やメディア関係者の注目を集めている。

もし放送中に少しでも「化学調味料」という言葉を発したり映り込ませたりしたものなら、超超超高圧的なクレームを即座に叩き込まれ、意味不明な報告書や今後の対策などの提出を強制され、社内全体の再発防止の講習会などを強制的に実施させられます。

もちろん、この匿名の“告発”の内容を鵜呑みにはできない。しかし、ここまで述べたように、テレビ各局が自主規制的に「化学調味料」を使わなくなった歴史的経緯を考えると、視聴者には見えないプレッシャーが制作現場にのしかかっているのかどうか気がかりなところだ。