もっと詳しく

ザトウクジラの尾びれ写真から個体を見分けるAI自動識別システムを開発、Diagence・阪大・慶應・沖縄美ら海財団で実用化へ

コンピューター技術をベースとした企画プロデュースを行うスタートアップ「Diagence」(ダイアジェンス)、大阪大学サイバーメディアセンター慶應義塾大学沖縄美ら海財団からなる研究グループは2月4日、ザトウクジラの尾びれの写真から個体を自動的に識別するAIシステムを開発した。ザトウクジラ研究者の個体識別に関する知見を取り込んだAIアルゴリズムシステムで、尾びれの写真を入力すると、登録されているクジラから特徴の近いものがリストアップされる。

捕鯨によって数が激減したザトウクジラは、保全のための研究が行われているが、その生態を把握するためには個体の識別が重要となる。ザトウクジラの個体識別には、撮影した尾びれ尾びれ写真をもとに、尾びれ先端のギザギザした形状と、尾びれ裏の模様が使われる。この写真については毎年400〜500枚が新たに撮影・追加されており、人の手によって識別するのは何カ月も要する大変な作業となっている。コンピューターを使って自動化させたいニーズは世界中の研究者が持っており、有名なデータ分析コンペティションKaggleでも題材として取り上げられるほどであるが、これまで実際に用いられているものはなかったという。

現在、沖縄美ら海財団では、30年以上にわたり収集してきた1850頭・約1万枚にのぼるザトウクジラの尾びれの写真があるものの、全写真のうち79%は1頭あたりの写真が3枚と少なく、光の具合、距離、角度などによって条件が異なり、形状や模様の判別が難しい状態にあった。さらに35%のクジラには、尾びれ裏に模様がないなど、人の目で識別を行う上でも困難が多い。

そこで研究グループは、深層学習や図形処理を用いて尾びれの形状を正確に切り抜き、そのギザギザ形状の特徴をベクトル化して尾びれの特徴を抽出する方法を編み出した。これによって特徴が抽出された新しい写真は、既存のものと照合され、近いものがランキング形式でリストアップされる。2016年に撮影された写真中の、過去に登録されている323枚について処理を行ったところ、89%が、上位30位までに正しいクジラが入っていた。また76%は、1位に正しいクジラがランクされた。

Diagenceは、このシステムを、ザトウクジラの研究を行っている世界の研究機関に普及させて、「自然科学研究の進展に貢献する」ことを目指すという。また同様の手法を使い、他分野の専門家の知見をAIシステムに落とし込むことで、他分野への応用も目指したシステムやサービスの開発を進めるとしている。

Diagenceは、コンピュータサイエンス領域の国立大学教授2名および教員1名、代表取締役である菅真樹氏の計4名が2019年1月に設立。このうち大学教授と教員はコンピュータサイエンス領域や人工知能領域で国際会議などで多くの業績を上げている研究者という。菅氏は、大手コンピュータメーカー研究職でコンピュータサイエンス領域の研究に10年以上従事した後、スタートアップCTOを経て、研究開発スタートアップを創業。受託研究開発や国家研究プロジェクトに携わる現役研究者であり、先端技術の事業化に取り組んでいるという。