もっと詳しく

自動車業界が自動運転車への道をゆっくりと歩む中、現在の自律走行システムの技術的ギャップを埋めようとするスタートアップが出現している。最新の動きとしては、自律走行システムの知覚能力の性能とその改善方法を評価するソフトウェアを手がけるスウェーデンのスタートアップ、Annotell(アノテル)が現地時間2月3日、事業拡大のために2400万ドル(約27億円)を調達したと発表した。

Annotellの共同創業者でCEOのDaniel Langkilde(ダニエル・ランキルド)氏はインタビューで、同社が行っていることを「自動車が運転免許を取得するための視力検査、あなたが運転に適しているかどうかを判断するために試験を受けるようなもの」と例えた。「Annotellのプラットフォームは、システムの性能を理解し、それを上げることを支援します。どうすれば改善できるかを顧客に指導しています」。つまり、Annotellの製品は、企業のデータの品質をテストし、測定する分析、およびそれらのデータセットを改善するための「正解データ」の生産を含んでいる。

その目的は完璧さではなく、予測可能性であり、現在すでに存在する半自律プラットフォーム(先進運転支援システムなど)にとっても、多くの企業が将来の構築を目指している完全自律型自動車にとっても同様に重要だと、ランキルド氏は付け加えた。「システムが常に正しいとは限りませんが、システムを安全に使用するためには、何ができて、何ができないかを知る必要があります」。

シリーズAラウンドは、Skypeの共同創業者Jaan Tallinn(ジャン・タリン)氏が率いるエストニアのVC、Metaplanetと、日本企業などが出資しているディープテック投資家のNordicNinjaが共同でリードしている。Metaplanetは直近ではStarship Technologiesに投資し、 Googleが買収したDeepMindの初期投資家でもある。AnnotellのシリーズAラウンドには、以前の出資者であるErnström & CoとSessan ABも参加した。ヨーテボリを拠点とするAnnotellの累計調達額は3100万ドル(約35億円)で、評価額は公表していないが、同社の顧客には世界最大の自動車メーカーとその主要サプライヤー、そして自動運転に特化している大手自動車会社が含まれる。

Annotellが埋めようとしている市場のギャップは、かなり重要なものだ。自律走行システムは、膨大な量の走行データと、その情報を処理してプラットフォームに運転の基本を「教える」のに使われている機械学習で成り立っている。

コンピュータビジョンを使って、これらのシステムは赤信号や停止している車、曲がるべき時などを認識することができる。問題は、これらのシステムの反応が与えられたデータに基づいていることだ。自律走行システムは通常「推論」することができず、自動車が実世界で必然的に遭遇するような未知の変数にどう対応するかを決めることができない。

「機械学習は、稀だが重要なことを処理するのが苦手です」とランキルド氏はいう。

Oscar Petersson(オスカー・ペターソン)氏と共同でAnnotellを設立したランキルド氏は(2人とも深層学習を専門とする物理学者)、以前別の会社(脅威インテリジェンスのスタートアップRecorded Future)で働いたときにこの問題に遭遇したと述べた。Recorded Futureでは、脅威をより識別するためにプラットフォームに与える情報データを収集することを任務としていた。悪意のあるハッカーは、隙間を見つけて脆弱性を作り出すことに注力するため、ランキルド氏のチームが将来の攻撃を軽減するためのパターンを特定するために行っていた作業の多くが、事実上台無しになった。

「ミッションクリティカルな仕事をする上で、ブルートフォース(総当り)方式の機械学習には限界があることが浮き彫りになりました」と述べた。

自律走行システムも同じような問題に直面しているが、正しく動作させることがより重要だ。というのも、何か問題が発生した場合に人命が危険にさらされるからだ。また、正しい動作により、企業が製品を市場に投入し、消費者に信頼してもらい、購入・使用してもらうために通過しなければならない安全性と制御のレベルがより高くなる。

「人々が機械学習やAIを信頼するためには、安全性に非常に真剣に取り組まなければなりません」と同氏は述べた。「映画サービスで間違ったレコメンドをすることと、一時停止の標識を無視したり人にぶつかったりすることは、大きな違いがあります。私たちはそのことも真剣に受け止めています。だからこそ、この問題にフォーカスしたかったのです」。安全規制の強化は、Annotellにとって、特定の使用例や市場機会を示すものでもある。顧客のためにシステムを改善するだけでなく、特定の製品の使用許可を与えるために、機関や規制当局が信頼できるデータ群を作成する。

機械学習がシステムに教えることを補完するAnnotellのアプローチは、今日の自律走行システムと同様に進歩的で、その性質上、完全な自律走行に設計されていないシステム(ドライバーに代わるものではなく、アシストするためのシステム)の限界を試し、形式化するものだ。やがて完全自律走行は、因果推論アルゴリズムの構築に用いられるベイジアンネットワークのような、他の種類のAIアプローチも取り込むかもしれない、とランキルド氏はいう(先週TechCrunchが取り上げた因果AIスタートアップはもっとドラマチックで、因果AIこそが自動運転の実現に向けた唯一の希望であり、それは大きな飛躍ではあるが、実現にはかなりの時間がかかると主張していた)。

しかし、今のところAnnotellは、大きなチャンスである、ある程度の自律性がすでに組み込まれたシステムの安全性に技術を注いでいる。

Metaplanetのジャン・タリン氏は声明で「自律走行車の商業展開においては、安全性の確保が主な制約となりますが、Annotellは短期間で大きな進歩を遂げました。我々はAnnotellのソフトウェアだけでなく、それを構築したチームにも感銘を受けており、彼らとこの旅をともにすることに興奮しています」と述べた。

画像クレジット:Jae Young Ju / Getty Images

原文へ

(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi