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旧経営陣らによる粉飾決算で上場廃止が決まったグレイステクノロジー社の評価を巡っては、監査法人などの責任も問われつつあるが(詳しくはこちら)、投資からに“好印象”を与えたメディアの結果責任も問われる可能性がある。日本経済新聞はわずか2年前、従業員1人当たりの売上高伸び率ランキングで1位になったとして、同社を激賞したばかりだった。

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当該の記事が日経に掲載されたのは2020年10月6日付の朝刊3面(電子版は前日夜掲載)。「日本経済のけん引役として期待される中堅中小企業」として独自に選出した「NEXT1000」の企業の中から、2020年4~6月期の従業員1人当たりの売上高が3年前と比較して大きく伸びた企業のランキングを発表。グレイステクノロジーは、不動産テックやIRコンサルティングなどの企業を抑え、伸び率が唯一2倍以上を記録する形でダントツの1位だったと持ち上げた。

記事では同社主力事業であるマニュアル制作のクラウド化に近年成功してきたと紹介。利益率を上げた要因として

近年は利益重視の経営を掲げており、採算の良い案件を厳選してきた。

過剰な従業員を抱えることなく、高収益体質に転換したことで、2020年3月期の売上高営業利益率は50%(前の期は38%)に上昇した。

などと指摘していた。

今回の粉飾決算に関わった疑いを持たれている創業者会長(当時、昨年4月に死去)も日経の取材に応じている。記事では創業時からの歩みや飛躍に至った理由、今後の展望についても詳述されており、元会長のコメント部分はこれらに記載はないものの、記事化にあたり反映されていた部分が小さくなかった可能性がある。

他人事のような監査法人の問題記事

一方、日経は粉飾決算発覚後の今月26日の電子版で、粉飾決算を見抜けなかった監査法人の「制度疲労」について指摘する記事を掲載。「20年3月期まで2桁の増収率で成長すると同時に、営業利益率も50%まで上がっていた」ことを引き合いに「不正を察知できる兆候はあった」と指摘しているが、問題の「20年3月期」は先述したランキング記事で1位に押し上げた時のものだ。監査のプロですら見抜けなかった不正を、その時点で記者に求めるのは酷だが、“他人事”のように監査法人の責任を指摘する記事を掲載することについて、何も呵責はなかったのだろうか。

「海外では日本のマニュアルはジョーク(冗談のように稚拙)だとよくいわれる」。2年前のランキング記事で元会長は日本企業の製品マニュアルの問題点をそう述べていたが、投資家からすれば今回の上場廃止は“悪い冗談”では済まされまい。

ネット上では日経の過去の報道についても問題視するコメントが出始めている。ビジネスニュースが、成長企業の勢いを報道する際の難しさを改めて浮き彫りにするとともに、日経が紙面に残した“黒歴史”を総括するのかどうか、読者や投資家の関心を集めそうだ。