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 2021年から2022年に掛けては全国的に雪が降る状況で、東京などでもスタッドレスタイヤやタイヤチェーンが活躍しました。久しぶりの雪ということで事故を起こすクルマ、スタックするクルマが多かったと聞いています。

 そこで今回はまだまだ続く雪予報の日本における、スノードライブの基本についてもう一度書いていきたいと思います。

文/諸星陽一
写真/Adobe stock(トップ:vsnd@AdobeStock)

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■スタッドレスタイヤは万能にあらず!! 雪国育ちでも過信は禁物

 ところで、なんで雪道は運転が難しいのでしょう? 答えは、雪道ではタイヤの限界が劇的にダウンするからです。たとえば、加速に関してのタイヤの性能は搭載するエンジンの出力に合わせて設定(もちろんそれだけではありませんが)します。しかしこれは、あくまでもドライでの性能を重視しています。雨や雪のときはドライバーが出力を絞ることで調整することが前提になります。

 さらにいうなら、ほとんどのクルマはドライでもタイヤの性能よりもエンジンの性能が勝っているので、急発進をするとタイヤが空転しそうになり、空転を防止するためにエンジンの出力を絞るTRC(トラクションコントロール)が作動します。

 どんなに高性能なクルマでもタイヤの限界を超えることはできません。これはドライ路面でも同じなのですが、雪道ではさらに顕著にタイヤの性能が影響してきます。雪道ではサマータイヤが役に立たず、スタッドレスタイヤを使いますが、それでも性能は追いつきません。スタッドレスタイヤは雪道でのタイヤの性能を少し上げてくれる程度と考えて下さい。劇的に上がるわけではありません。

日陰などにはツルツルのミラーバーンが潜んでいることがある。スタッドレスでも滑る(森住卓@AdobeStock)

■雪道で難しいのは加速より減速! 事故防止のため気を付けたい基本

 さて、スノードライブの基本ですが、タイヤの性能が雪や氷によってダウンしているのですから、スピードを落とすことが第一になります。レースで雨が降るとラップタイムがダウンしますが、これは雨によってタイヤの性能が発揮できないことが原因です。スノードライブはこの現象が極端に発生していますので、速度は極端に落とす必要があります。速度を落とすということがスノードライブの最大のポイントです。

 実はやっかいなのはブレーキとコーナリングなのです。加速に関してはどんなに頑張っても限界以上に加速することができません。しかし、ゆっくりとした加速であっても高い速度に持っていくことはできます。

 また下り坂ならばそれなりの加速感で高い速度に持っていけます。しかし、高くなってしまった速度からのブレーキングやコーナリングは相当にキツくなります。これを回避する唯一の方法は速度を落とすことです。普段、雪に慣れていない地域のドライバーはかなり慎重になりますが、降雪地のドライバーは高い速度で走りがちなので、初心に戻るような気持ちも大切です。

過信によるスピードの出しすぎでスピンし対向車と事故を起こす事例も多い(sum41@AdobeStock)

 速度はどうやって決めたらいいか? これもまた難しいのですが、わかりやすいのはブレーキをチョンと踏んでみることです。ブレーキを踏んでABSが作動するようならそれは速度が出すぎています。ABSが作動するというのはタイヤが限界に達している証拠です。ブレーキペダルを踏んだときに、ペダルから「ガンガン」や「グイグイ」といった連続的なキックバックがある時がABSが作動している時です。

 技術的にはこのキックバックは消すことができますが、キックバックを残すことでABSが作動状態である、つまりタイヤが限界であることを知らせるためにあえて残してあります。もちろん、後続車がいる時にこれを行うのは危険です。

 また、同じようにステアリングを左右に切って、横方向のグリップを確かめたくなることもありますが、これは控えたほうがいいでしょう。フロントのグリップがよく、リヤのグリップが低い場合には、スピンに至る可能性があります。

■スタッドレスタイヤの空気圧は特別? 平地と高地で異なる事情

 スタッドレスタイヤの空気圧について質問を受けることがありますが、これは規定値で問題ありません。昔はオフロードタイヤで、泥のなかを走る時は空気圧を下げるといったことが行われたことがありますが、現代のタイヤは空気圧は既定値で使うことを前提に設計されています。

 空気圧はクルマの重量と速度に関係しますので、重量(乗車人数)や速度による指定がある場合には、それらにしたがって合わせます。

スタッドレスタイヤの空気圧は既定値に調整する。ただし、気圧によるタイヤ空気圧の変化には気をつけよう(naka@AdobeStock)

 気をつけたいのが、気温と気圧によるタイヤ空気圧の変化です。気温が下がるとタイヤ空気圧は下がります、一方で標高が上がると気圧が下がります。気温の高い地域の高速道路走行直後に合わせた空気圧で、気温の低い場所に行き、一晩駐車した状態での空気圧は大きく違いが出ます。

 また、標高が高いと周囲の気圧が下がるので、タイヤ内部の空気圧が上がります。高い山などに行くとポテトチップスの袋がパンパンにふくれると同じ現象です。不安感がある時は、空気圧を調整することをおすすめします。

■慣れても陥ることのあるスタック どう脱出るべきか!?

 スタックした際、そこから脱出するにはいくつかのポイントがあります。まず、ステアリングを切らないことです。路肩に突っ込んでスタックした時に車道に真っ直ぐに戻りたいからといって、ステアリングを切ってはいけません。ステアリングを切ると抵抗が増えてしまうので、まずは直進状態で脱出することを目指します。

 前進と後退を繰り返して、だんだんその移動距離を長くしていって最終的には脱出というシナリオです。後方に脱出する場合、だんだんとタイヤの後ろ側に雪が溜まっていきますから、その雪を人力で除去しながら行うことで効率をアップできます。

 グリップしないタイヤを助けるためにタイヤと雪(氷)の間に何かを挟むという方法もあります。市販されているスロープなどを駆動輪の脱出したい方向に挟み込んで、スロープに乗っかって脱出するという方法です。スロープでなくても毛布などを挟み込んでも効果があります。何もない時はフロアマットを使うという手もありますが、フロアマットが傷むことは否めません。

 布製チェーンも効果があります。布製チェーンはタイヤに被せた後にタイヤを空転させると自然とタイヤに巻き付いていきます。スロープは車載時にジャマになりがちですが、布製チェーンはあまりスペースを取らずに搭載することができます。

 クルマの駆動力に頼らない脱出方法もあります。もし人出があるなら、人力でクルマを押して脱出する方法です。前後にクルマを揺らしながら脱出したい方向に一気にクルマを押しだします。また、ほかのクルマでけん引する方法もあります。

 ほかのクルマでけん引してもらう時は、両車が一直線上に位置するようにして引っ張るのが基本です。角度がついているとけん引ロープを引っかけた部分が曲がることがあります。どちらの方法でもドライバーが乗ってエンジンが始動していることが大切で、脱出後にはブレーキを踏んでクルマを停止させる必要があります。

スタックした場所によっては後続車に多大な影響を及ぼしてしまうので無理は禁物。非降雪地域のドライバーがやりがちな、夏タイヤでの走行はもってのほかだ(Rico Lob@AdobeStock)

 雪道の苦手意識を克服するにはなんといっても経験を積むことです。雪道ドライブを意識したドライビングスクールなどに参加することもひとつの手ですが、自分で走りに行くのもひとつの手。スタックした時の装備を持って、助けてくれる仲間と一緒に迷惑が掛からないような場所に走りに行くのが一番です。ドライ路面でも最初は不安で、それを克服するために走りに行ったはずです。雪道だってそのプロセスは何もかわりません。

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